第22話


 バンッ!


 強いキック音が、あたしの鼓膜を蹴った。

 それは、ついさっき聞いた憎い音とよく似ていた。

 怒りなのか、何なのか。心の中でふつふつと沸き立つ感情が、あたしの身体を震わせて、あたしの動きを止める。

「コラー! ジュア、ボールに集中してー!」

「あ、ごめーん!」

 また、ナゴミに言われた。

 あたしはゲームに集中しようとする。でも、上手くできない。

 だって、まだお腹が痛そうなコトちゃんのことが、気になって仕方がないんだもん。


 それから、コトちゃんはヘーキだって言うし、ニッコリ笑ったりもした。でも、あたしにはお見通しだった。コトちゃんは無理をしているって、お見通しだった。

 だからあたしは、ダイキを呪おうと思った。

 ちゃんと頭を下げていたら、呪おうとまで思わなかったかもしれない。でも、さっきの出来事を思い出すたびに、あのヘラヘラ顔までよみがえってくる。それがどうにも、ムカついたんだ。

 呪うしかない。呪ってやる。今はきっと、あたしの不思議な能力を役立てる時だ。

 ――コトちゃんの痛みが、ダイキにうつったらいいのに。


 あたしは困惑した。

 確かに呪ったはずなのに、いつもと違って何か起きない。

 呪ってから何か起きるまで時間がかかることはあるけれど、それにしても時間がかかりすぎている気がする。

 もしかしたら、あたしの呪いパワーは弱くなったのかもしれない。

 それとも、使い方を間違えて、使えなくなっちゃったのかなぁ。

 ダイキのお腹に、異変はなさそう。

 ダイキのお腹だけじゃない。コトちゃんのお腹にも、変化はなさそう。

 お腹を打って、ずっとそのままって、何かおかしくない?

 そういえばコトちゃん、休み時間の度にトイレに行っているみたいだ。

 うーん、でも、お腹を打って、毎回トイレ? やっぱり、何かおかしい。

 もしかして、ボールが当たったこととは違う理由で、トイレに行っていたりするのかな?


 給食の時間になっても、ふたりのお腹に変化はないようだった。

 ダイキは喋ってうるさくしながらモリモリ食べてるし、コトちゃんは調子が悪そうな顔をしながら、ちびちび食べてる。

 あたしは、突然自分の呪いパワーを感じられなくなったのはなんでだろうって考えながら、魚のフライをつまみ上げた。

 

 ボトン!


「あ……」

「ジュア、あたしの食べる?」

 気づいたコトちゃんがそう言ってくれたけど、

「ううん、いい」

 食べることに集中していなかった、あたしのせいだもん。フライを落としたのも、それを食べられなくしちゃったのも、あたしのせいだもん。

 あーあ。ちょっとだけ時間を戻せたら、しっかりつまんで、パクって食べるんだけどな。

 人の親切を断って、自分の過去をちょっと呪う。

 するとその時、

『う、うぅ……』

 騒がしい教室のなかに、小さなうめき声が響いた。

 あたしの耳には、確かにそれが聞こえた。

『ダイキ、どうした?』



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