10.痛い痛いの……
第21話
今日の体育は、男子と女子、別々でやるサッカーだ。
低学年の頃はいっしょにやっていたような気がするけれど、成長していくほど別れることが多くなった。
着替えは中学年から別々になったんだったっけ?
このことをお母さんに話すと、「いいなぁ」っていつも言う。
「お母さんのころなんてね、高学年だって同じ部屋で着替えてたんだよ? 洋服の下でもぞもぞやりながら、必死に隠れながら着替えてさ。体育の授業だってさ、やっぱり男子のほうがこう、なんていうの? 活発に動けるっていうか、パワーが強いっていうか。だから、なんか男子中心、女子添え物って感じでさ。これっぽっちも楽しくなかったよ」
毎回のように同じことを言うけれど、時々聞いたことがないエピソードがちょこっと添えられていたりするから、お母さんが過去の愚痴をこぼすときは、けっこう楽しく聞いてる。
そんなお母さんがママ友ネットワークから手に入れてきたらしい情報によると、中学生になったり高校生になったら、もっともっと別れることになるらしい。
今はまだ、はっきりイメージすることができないけど。
別々でやるっていっても、今は隣のコートで、目に見える範囲にいるからよくわからないのかもしれない。
これがたとえば、男子は校庭でサッカー、女子は体育館でダンス、とかだったら。そうしたら、なるほどこうして男子と女子は別れていくものなんだ、ってわかったのかもしれない。
「コラー! ジュア、ボールに集中してー!」
「あ、ごめーん! ぼーっとしてた!」
ナゴミに言われて、あたしはゲームに集中する。いけない、いけない。ゲームの途中で、隣のゲームばっかり見てるとか、ダメダメすぎ。
『タケシ! パースッ!』
隣のコートからダイキの大きな声が聞こえてきた。声に続いて、バンッって力強くボールを蹴る音も聞こえてきた。
『どーこ蹴ってんだよ、ダイキ!』
ボールはタケシのほうに飛ばなかったらしい。タケシの声は、面白い話をしているときみたいに弾んでいた。
「あ! コトちゃん、危ない!」
突然、ミキが叫ぶ。すると、すぐ、
バシッ! ドンッ!
隣のコートから飛んできたボールが、コトちゃんのお腹にぶつかった!
コトちゃんはバランスを崩して倒れた。
「大丈夫?」
女の子たちは、ゲームなんて放り投げて、コトちゃんのところへ走り寄る。
『あ~、えへへ。ごめんごめん』
ダイキはヘラヘラと頭を掻きながら、コトちゃんに謝った。
「ヘーキ、ヘーキ」
コトちゃんが、すぐにダイキを許した。
「コト、大丈夫? 怪我はない?」
先生が走り寄ってきて、コトちゃんに訊いた。
「大丈夫です。ちょっと擦っちゃったけど、こんなのなんてことないし」
「そう? だけど、保健室に行って洗ってこようか。絆創膏は……」
「いや、このくらい、そのままで平気です。もし血がにじんできちゃったりしたら、その時は保健室行きます」
「そう?」
「はい。それじゃあ、サッカーしよう! ごめん、ゲーム止めちゃった」
「そんな、コトちゃんのせいじゃないから!」
コトちゃんが大ごとにしなかったから、何ごともなかったかのようにサッカーは再開された。
ボールが転がる。みんなが走る。
大きな声が、ボールとともにあちこちを駆け回る。
隣のコートからは、的確そうに聞こえる男子のプレー指示が漏れ聞こえてくる。
あたしの目は、気になるほうばかりをロックオンしているみたいに見続ける。
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