9.誕生日を祝おう
第19話
学校へ行き、教室に入ると、コトちゃんがナゴミに「誕生日おめでとう!」と何かを手渡していた。
コトちゃんの声がすごく弾んで、キラキラしていたからか、ナゴミの周りに人の輪ができた。ナゴミはその中心で、照れ臭そうに笑っている。
あたしは、なんかいいな、って思った。こうやって、人の大切な日をお祝いできるって、なんかいいなって。
でも、あたしやナゴミの周りに集まった人たちとは、違う考えを持つ人もいる。
その一人が、チカラだ。チカラは盛り上がる輪に向かって、
「学校に余計なものをもって来ちゃいけないんだぞ!」って、文句を言った。
ブーブーってブーイングをする人が居たり、「誕生日くらい良くない?」って呟く子がいたりした。
和やかで晴れやかだった教室の雰囲気は崩れた。一気に緊張の糸がピンと張る。
だんだんと、ふたつの意見は熱を帯びていく。
あたしはひとり、心の中で、どんな呪いをかけようかって考えだす。
「これ、余計なものなのかな」
教室内の荒れた雰囲気を吹き飛ばすように、コトちゃんが言った。いつものコトちゃんとは違う、力強さを感じる、ゆずる気のない声だった。
「あったりまえだろ? プレゼントなんて――」
言い合いが始まった。その様子を一番近くで見ながら、ナゴミはもらったばかりのプレゼントをコトちゃんに返そうとした。
そうすれば、この場が丸く収まると思ったんだろうな。
でも、コトちゃんはそれを受け取らなかった。それどころか、「ねぇ、今ここで開けてよ」って、ナゴミに言った。
ナゴミは困った顔をしたけれど、コトちゃんの少しの焦りもない落ち着いた、意思の強い表情につられたみたい。どこか安心した様子で、封を開けた。
「ん? えっと……」
「これは、ナゴミがこの前『いいな~』って言ってたペンを貸してあげる券。それで、これは遊ぶときに、鬼になるかならないか、自分で決められる券。ああ、でも、他の人を巻き込む気はわたしにはないの。だから、普通に鬼決めをした後、ナゴミがこれじゃいやだな、って思ったら、わたしと交換ってことで。それと、それと――」
「はぁ? そんな紙切れのことを、プレゼントって言ってたの? ダッサ」
チカラが笑うと、ナゴミはチカラを睨みつけて、
「こんなに心がこもったプレゼントが紙切れにしか見えないとか、ダッサ」
プレゼントを抱きしめながら、吐き捨てた。
あたしが呪う必要なんてなかった。どうやって呪おうか、考えるだけ無駄だった。
チカラは逃げるように廊下へ出ていって、朝の会が始まる直前まで、教室に戻ってこなかった。
「――はい。と、いうことで、朝の会は以上です。あ、違う。もうひとつだけ。実は昨日、市内の学校に通っている子が、変な人に会ったそうです」
へぇ。あたしがコンビニでキクノスケに捕まえられた悪い人と会ってから、何日もたってないけど。
変な人、また居たんだ。
「車に乗っていて、児童の近くで車を停めて、声をかけてきたとのことでした。みなさん。何度も何度も言っていることだけれど、『いかのおすし』を、確認してくださいね」
確認する必要なんてない。入学してから何回も聞いているから、覚えちゃってる。
いか、は行かない。
の、は乗らない。
お、は大きな声で叫ぶ。
す、はすぐ逃げる。
し、は知らせる。
「皆さん、ランドセルに防犯ブザーをつけていますか? いざという時、大きな声で叫ぶ、というのは、人によってはむずかしいことなので、ブザーがあると、近くにいる大人に知らせやすいです。もし、無くした場合は、新しいものを用意してください。電池が切れて鳴らない場合は、電池を付け替えてください。ランドセルを背負った時、手が届くところにしっかりとつけて、登校するようにしてください」
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