第18話


「ああ、そうだったんですね」

 未だに事を理解していないみたいだけれど、おばさんにジュースを買ってもらうことを、お母さんが許してくれた。

 でも……ええ、どうしよう。

 おばあちゃんにおねだりする時は、普段は飲めない高いジュースを飲むんだけどな。

 知らないおばさんにおねだりするなら……パックのフルーツジュースにしておこう。

「炭酸嫌いなん? コーラとか飲まんの?」

「コーラ? 飲む。好き」

「じゃあ、これも買うてあげる。ご褒美、ご褒美!」

 おばさんは、〝ご褒美〟っていうのが楽しいのかな。

 とっても素敵な笑顔で、あたしにジュースを買ってくれた!

「ありがとう」

「どういたしまして」

 みんなでニッコリ笑い合っていたら、すごい顔をして、サトコおばちゃんが走ってきた!

 サトコおばちゃんっていうのは、隣の家に住んでいる人。誰かからお土産をもらったりすると、おすそ分けをしてくれる、いい人。

「お巡りさあああん!」

 初めて聞く、大声だ。近くにいた人みんな――もちろん、お巡りさんも、パトカーに乗ろうとしていた悪い人も、サトコおばちゃんを見た。

「ねぇ、あっちにね、包丁落ちてるの! けっこう大きいの! 危ないから110番しようかと思ったんだけど、コンビニにパトカー止まってたって聞いたからぁー!」

 サトコおばちゃんはお巡りさん一人を、誘拐するみたいに、包丁が落ちているところまで連行し始めた。

 お巡りさんが、困ってる。

 なんだか今日は、すごくいろんな人たちを見たな。


 なかなか、楽しかったかも。

 でも、けっこう怖くて、かなり疲れた。


 結局、バターを買おうとしていたことなんてすっかり忘れてしまったから、料理が中途半端になっちゃった。

 お母さんも疲れたのか、単に面倒くさくなっただけなのか。

「メニュー変更だ! 今日は特別」って晩御飯の時にポテトチップがどーん! って出てきた。

「これは、ポテトサラダです!」

 異論は許さぬ、と、絶対言っている顔。これは、何度か見たことがある、大人のくせに子どもみたいな顔。

 あたしはその〝ポテトサラダ〟を、おばさんに買って貰ったご褒美を飲みながら食べた。

 ああ、なんか、まだ――いつもと違う時間が続いてる。

「あたし、お風呂入って歯磨きして寝るぅ」

「お母さんもお風呂入って歯磨きしたら寝よぉ。あ、お父さんに『ご飯はお任せです』ってメッセージ送っておかなくっちゃ。……ねぇ、お風呂一緒に入らない?」

「何言ってんの?」

「久しぶりに」

「やーだね。プライバシーの侵害」

「くそぅ」

 どうせここまで〝いつもと違う〟を過ごしてきたんだから、お風呂に一緒に入ってあげればよかったかな。

 うーん。でも、やっぱり、もう嫌だ。

 だってなんか、恥ずかしいもん。



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