第16話
ウー! ウー!
少ししたら、パトカーがサイレンを鳴らしながら、コンビニの駐車場にやってきた。
あたしに「大丈夫?」って声をかけてくれた店員さんが、お巡りさんとお話を始めた。
あたしは、帰ろうとした。もう、ここに居たくなかったから。
でも、あたしも被害者? みたいなやつらしくて、待っててって、言われちゃった。
あーあ。なんか、面倒なことに巻き込まれちゃったよ。
あたしはお巡りさんに、名前とか、おうちの電話番号とか、色々訊かれた。
名前はもちろん、スラスラ言える。でも、電話番号は、ちゃんと覚えてないから、スラスラ言えない。
いつも、電話する必要がある時は、メモを見ながらボタンを押してる。そのメモは、ランドセルのポケットと、お財布の中に入ってる。
今は、ランドセルを持ってないから、お財布のやつを見るしかない。
だからお財布を開けたら、お金がキラン、って輝いた。
ああ、あたし、このお金でバターを買おうとしただけなのにな。
お巡りさんたちと話をしていたら、
『イッテェ!』
お店の外から、とっても大きな声が聞こえてきた。
お巡りさんも、店員さんも、みんなみんな、声がする方を見た。
『イッテェ! やめろ! コラ!』
声はだんだん、近づいてくる。
みんなの視線は、声の主をとらえようと、歩道をひたすら見つめてる。
「あ! アイツです! アイツが『金出せ』って言って、ナイフで脅してきたんです!」
店員さんが、指さし叫んだ。
こういうとき、お巡りさんはビューンって走っていって、ドーンって、柔道の技? みたいなやつをかけるものだと、勝手に思ってた。でも、違った。
お巡りさんは、動かない。本当は、普通は、動くんだと思う。今回が、変なんだと思う。
だって、悪い人が勝手に、お巡りさんのほうに駆けてくるんだから。
「イッテェ! コラ!」
「すみません、すみません!」
その人がした悪いことを知っている人は、クスクス笑い始めた。
お巡りさんの顔を見てみる。なんだか、呆れているような気がする。
「すみません! うちの子が、この方のお尻に噛みついてしまって。大きな体だから凶暴そうに見られることもあるけれど、本当は穏やかで優しい子なんですよ。本当は、こんなに凶暴な子じゃないんです! 普段は大人しい子なのに! なんで? ねぇ、もうやめて! キクノスケ!」
「おい! 見てねぇで助けろよ、お巡り!」
「あ、そうだ! この子、お座りって言うと、咥えてるものを放すんですよ」
「バカ! それならさっさと命令しろよ!」
「すみません、すみません! キクノスケ、お座り!」
キクノスケは、飼い主さんの声掛けに従った。でも、お尻を放すことはなかった。
キクノスケがお尻を地面につけようとしたひょうしに、お尻が引っ張られて、悪い人の身体が傾いた。
途中、キクノスケは〝あ、これじゃぶつかっちゃう〟とでも思ったのだろうか。それとも、躾通りの行動だったのだろうか。絶妙なタイミングで嚙みつくのをやめた。
悪い人は噛まれたお尻で、尻もちをついた。
「イッテェ!」
悶絶する悪い人に、困り顔のお巡りさんが問いかける。
「えっと、それで……。キミがここで強盗しようとしたっていう話があるんだけど、間違いない?」
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