7.捕まえられちゃえ!

第15話


 あの時の車が、単独事故を起こしたのは、あたしが呪ったせいかもしれない。

 ざまぁみろって思う。

 でも、あたしが呪ったせいで間違いないとしたら、やりすぎたかもしれない、とも思う。

 運転してた人が、ケガをしたらしいから。当たりどころが悪かったら、ケガではすまず、もしかしたら死んでしまっていたかもしれない。

 だれにも相談できない過去が、ふわふわと頭の中にやってくる。あたしはそれを振り払いながら、交通状況に注意して、今日は一人でお買い物にやってきた。

 お母さんに言われたんだ。なんか、バターを買い忘れたから買って来て、ってさ。

 スーパーは遠いから、コンビニでいいって。コンビニでいいなら、パッと買って、パッと帰れそう。ラッキー!


 あたしはコンビニの駐車場の隅っこを歩いて、出入り口のところまで来た。でも、すぐに入っていけなかった。

 なんか、変な感じがしたから。頻繁に来るわけじゃないから、いつもと違うとか、そういうはっきりとしたことは言えない。でも、お店の中が、なんだかおかしかったんだ。

 

 キラン!


 何かが光った。あれ、見たことがある。っていうか、知ってる。これをここで見ちゃいけないものだっていうことも、あたしは知ってる!

 あれは、ナイフだ!

 ナイフを持っている人が、クルッてこっちを向いて、ダッダッダッて走ってきた!

 あたしはとっさに、横に一歩ずれた。こうしないとぶつかっちゃうし、もしかしたら刺されちゃうと思ったから。

 でも、ずれ足りなかったみたいで、ナイフを持っている人とぶつかって、あたしは尻もちをついた。

 ギロッて怖い目で見られて、あたしの身体はビクッてした。

「おい、お前っ!」

 お店の中から、誰かが叫ぶ声がした。

 すると、怖い目はあたしを見るのをやめた。怖い目がお店の外を見た。犯人が、走って逃げた!

「大丈夫?」

 肩に手を当てながらそう問われて、あたしはこくん、と頷く。

 声をかけてくれた人を見てみる。その人は、このお店の制服を着ているから、コンビニの店員さんみたい。右手にオレンジ色のボールを持っている。その手は、投げても狙ったところには絶対に当たらなさそうだな、って思うくらい、プルプルと震えていた。

 あたしの頭の中には、いろんなことが渦巻いてる。

 心が荒れている。

 考え事をしようとしても、考え事ができないくらい。

 このことを考えようっておもっても、ザッパーンッって波にさらわれてしまう。

 落ち着かない。落ち着きたい。

「怪我はない?」

「立てる?」

「手を貸そう」

 店員さんや、近くにいた大人の人たちが優しい声をかけてくれた。

 そのおかげで、あたしはだんだん落ち着いてきた。

 だけど、落ち着いてきたら、尻もちをついたせいでお尻がチクチク痛むのが気になり始めた。

 もう! あの、ナイフをもった、黒いTシャツの、ボロボロズボンの男の人のせいだ! つり目で口が小っちゃくて、小っちゃい口のすぐ横に大きなほくろがある、怖い人のせいだ!

 あたしはグググッて歯を食いしばって、あの人を思い浮かべながら、

 ――あたしのお尻のチクチクが、あの人にうつればいいのに! ついでに、お巡りさんに捕まえられちゃえばいいのに!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る