第14話
あたしはまだ家に帰っていないっていうのに、道の上だっていうのに、心の中にとどめていようと思った言葉を、グチグチと吐きだしてしまった。
近くにいた、犬の散歩中の見知らぬおじさんが、ぎょっとした顔であたしを見た。
あたしと目が合ったら、気まずそうに笑って、犬と共にあたしの横をタッタッタッて、そこだけ急ぎ足で歩いていった。
あーあ。なんか、嫌な日だな。
また、楽しくない想像が広がっていく。
ブンブンブン!
水を浴びた後の犬みたいに、首とか身体とか、いろんなところを振った。
よし、これでたぶん、あたしはもう楽しい想像しかできなくなってる!
そう思い込ませながら、あたしは家まで、車に気をつけて歩いた。
その日の夜。
あたしはお父さんとお母さんに、車のことを相談するか、悩んでいた。
言ったほうがいいと思う。でも、あのことを考えると、あたしはまた楽しくない想像でいっぱいになっちゃう気がした。それが嫌だな、って思った。
言おうかな、どうしようかな。
決められずにいると、突然、お母さんのスマホがピロン、って鳴った。
「おおお……」
「ん? どうかしたの?」
「ああ、いや……。なんかね、ミキちゃんちの近くで、事故があったみたいでさ。その写真をダイキくんママが送ってくれたんだけど――」
お母さん同士の情報網は、なんだかちょっと、早くて怖い。
あれ? もしかして、あたし、無駄に悩んでいるのかも。こんなに早いってことは、お母さんにポロって喋ったら、お母さんたちに広がって、瞬く間に情報が行き届くのかも。
よし。心が決まったぞ!
どこかそういう報告を受け付けてくれるところに言って、とまでは言わない。だけど、お母さんには話す。
でも、とりあえずここはちゃんと、お母さんが今しようとしている話を聞いておこう。
あたしがちゃんと話を聞いたら、お母さんもあたしの話をちゃんと聞いてくれるはずだ。いや、たぶんお母さんの話を聞かなくても、あたしのお母さんはあたしの話を聞いてくれるとは思うけれど。聞いてもらってばっかりじゃ、なんか申し訳ないと思うから。
いくら、親子でもさ。
「ふーん。それで?」
『ふぁ、いい湯だったぁ』
大事なところで、お父さんの気が抜けた声。
でも、あたしは集中の糸を切らない!
「これ、見てよ。単独事故らしいんだけどさ、歩いてるときとかに巻き込まれてたら、ひとたまりもないよ。ジュア、あなたはちゃんと気をつけていると思うから、これ以上気をつけようがないかもしれないけれど、ぼーっと歩いちゃダメよ。青信号でも、右左右! ……って、聞いてる?」
「……え? ああ、うん。聞いてる。これからも気をつける」
「そう? いま、絶対ぼーっとしてなかった? ダメだよ? 道路でそれやっちゃ」
「うん」
大丈夫だよ、お母さん。
今、あたし、びっくりしちゃっただけだから。
キラキラした紺みたいな色で白い二本線がある黄色いナンバープレートの車がグシャッてなってる写真を見て、びっくりしちゃっただけだから。
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