5.青信号で渡れない
第11話
いつもはナゴミと一緒に帰っているけど、「これからおばあちゃんの家に行くの」ってナゴミが言うから、今日はいつもより早く、手を振り合った。
あたしは、帰り道の途中から、一人になった。
誰かと話していると平気なんだけれど、一人だとぼーっとしちゃって、怖い想像が頭を駆け巡る。
最近の呪いは百発百中!
日常の中でいう百発百中は、だいたいいいことばかりだけれど、あたしの場合はしっかり呪える〝呪い屋さん〟ってことだ。それは、あんまりいいこととは思えない。
なんなら、こんなしっかり呪えるあたしは、気づいていないだけで、実はもう、誰かや何かを殺してしまっているんじゃないかって考えてしまうんだ。
だってあたし、ギャンギャン吼えてうるさい犬に向かって悪いことを念じたことがあるし、ゴミをポイ捨てして走り去る人に〝あんたがゴミじゃん〟って思ったこととか、あるんだもん。
誰にも言ったことはないけれど。
頭をブンブン振って、怖い想像をどこかへ飛ばそうとした。代わりになにか、楽しいことを考えたいな。
進む道をじぃっと見ながら、楽しい想像のタネを探す。
いつもと変わらない風景ばかりが目に映る。
昨日つぼみだったからって今日咲いているわけじゃないし、ずっと消えかけたままの白線が今日ははっきりと塗りなおされているわけでもない。
だんだん視線は、風景を見なくなった。あたしはひたすら、あたしの足ばかりを見るようになった。
気持ちが落ちていく。
なにか、楽しくなるようなことは――。
そうだ、遠くへ出かけて、そこで新しい友だちを作って、一緒に遊ぶっていう想像はどうだろう。
同じ学校に通っていたり、近くの公園で遊んでいたり、歩いたり自転車で移動できるくらいの距離で習い事をしていたりする子たちとは、それなりに遊んでいるつもりだ。
どんな遊びをするかもだいたいわかる。「○○やろうよ」って言われたら、すぐに何をやるかわかる。説明なんていらない。
それは楽だけれど、新しいことじゃないから、ちょっとだけつまらない。
知っていることは勝ち負けばっかりが気になっちゃって、時々チクチク心がいたくなっちゃって、下手したら呪いそうになっちゃうのも嫌なところだ。
ああ、あたしと一緒に遊んで、痛い目にあった子とか、いるのかもな……。
って……ああ、もう! やっぱりまた、なんか楽しくない想像しちゃってるじゃん!
足ばっかり見ているから楽しい想像ができないんだって考えた。あたしは、視線を足元から街へとうつした。
「あっ!」
信号が青になるのを待っている、黄色いランドセルカバーの子がいる。
あたし、あの子知ってる。
ルリちゃんだ。
まだ距離があるから、はっきりと顔を見ることはできない。でも、ルリちゃんが「お母さんがつくってくれたの!」ってニコニコしながら見せてくれた、レースがたっぷりのかわいい移動ポケットが目印になってくれる。あのポケットを付けていて、あの背丈で、あの髪型なら、間違いない。
追いつけるかな。
追いつけたら、「元気?」とかそれくらいちょこっとしたことを、話しかけたいな。
そうしたら、なんだか楽しい気分になれそう!
でも、あたしの希望は、信号機に打ち砕かれた。
あたしが追いつく前に、信号が青に変わったんだ。
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