第9話
あたしは、タイミングを探した。
泥だらけのミキを笑った罰を与えるには、どうしたらいいだろうって考えた。
おかげで計算を間違えちゃったけれど、良い案を閃くことができたから、計算間違いなんて気にしないことにする。
狙うは三校時。今日の予定は、習字だ。
三校時になると、みんな、机の上に習字セットを広げた。先生の話を聞いてから、集中して筆を走らせ始めた。
紙を触る音とか、墨汁を硯に流す音とか、筆をすぅってする音とか、文鎮を落とした音とか。いろんな音が、割と静かな教室に響いている。
いくら小さな声でも、こんな時の話し声はよく響く。話し声がすると、すぅっと先生が動きだす。そうすると、話し声がすぅって消えて、習字の音と、廊下からやってくる他のクラスの音ばかりが耳に入ってくるようになる。
あたしは、集中して、文字を書いた。
いつもよりも集中したから、一発で納得のいく文字を書くことができた。
でも、授業の時間はまだまだある。だから、あたしは新しい半紙を取り出して、それを文鎮でとめて、また文字を書く。
こんどはほとんど集中していないから、下手くそ。だけど、これは提出しないから、別にこれでいい。
やっているふりができればそれでいいんだから。
あたしの心は、呪いでいっぱい。習字のことなんて、もう考えてない。
――ナルトも転べばいいのに。墨で汚れてしまえばいいのに。そうして、笑われればいいのに。
ドーン!
名前の漢字の横線の数を間違えて、さすがに集中しなさすぎだな、なんて反省していた時、すごい音がした。
その音にびっくりして、余計な横線がさらに一本増えた。
クラスのみんなが、まるで機械か何かに操られているみたいに動きをそろえて、音がしたほうを見た。
そこで、墨汁まみれになったナルトが、震えていた。
あ、っていう短い悲鳴と、クスクスという笑い声が、集中が満ちていた教室を染め上げる。
先生は、ナルトのもとへと急いだ。
「怪我はない?」
ナルトは何も答えない。
「先生。ナルト、半紙落として、拾おうとしてました。そうしたら、バランスを崩して、ガタガタって机が傾いて、習字セットが落ちそうになって、それで、ええっと……色々ひっくり返って――」
隣の席のタクマが、状況を細かく説明する。と、ナルトが子どもみたいに泣き出した。
「着替えたほうがいいね。保健室に行こう。えっと、保健委員は――」
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