2.確信

第4話


 あたしはあげパンをかじりながら、考えた。

「あ!」

「ど、どうしたの? ジュア。牛乳こぼした?」

「え、あたし、牛乳こぼしてる?」

「え? いや、だって、牛乳こぼしたみたいな声出すから」

「あ、ごめん。ちょっと閃いちゃって」

「はぁ」

 隣の席のマイと話をしていると、マイの隣のケイゴが、

「ははは! ジュアのやろう、口のまわりがきなこまみれだ!」

 あたしを指さして、笑った。

 あたしは、気づいたことが本当か、確認するなら今だ! って思った。だから、心の中で言った。

 ――あたしの口がきなこまみれだって笑った、ケイゴがきなこまみれになればいいのに。

「ジュア、ティッシュあげようか」

「ううん、大丈夫。持ってるから」

 ポケットティッシュを取り出して、口の周りを拭く。っていっても、あげパンはまだ残ってる。だから、これからまた、口の周りはきなこまみれになるはずだ。今拭いても、たいした意味はない。けれど、ケイゴにまた何か言われそうだから、拭いておく。

「なぁ、休みのヤツがいるってことは、あげパン残ってるよね?」

「ええ、あるなら食べたい」

「食べたいやつ集合! じゃんけんしようぜ!」

 給食に余りがあるとき恒例の、じゃんけん大会が始まった。

 あたしも昔は参加したことがあるけれど、二年生くらいの時に「ジュアちゃんって食いしん坊なんだね」って言われてからやめた。

 なんだか、恥ずかしいことのような気がしたから。

 誰がいるかなんてたいして気にしたことがなかったけれど、いざ周りを見てみたら、じゃんけんに参加しているのは男の子ばっかりだったから。

 なんとなく、女の子が入って行っていい場所じゃない気がしちゃったから。

 先生にはあたしの心の中が見えないから、「今日はじゃんけん参加しないの?」って、やめてすぐのころよく聞かれた。

 そのたび、「おうちにおいしいおやつがあるので」とか、いろいろ言ってごまかした。

 おいしいおやつがあるかどうかなんて、学校にいるときのあたしは知らなかったけれど。

「じゃーんけーんぽん!」

 二年生くらいの時は、じゃんけんをしているところを見ると、ほんの少し悔しかった。

 でも、今となっては、なんとも思わない。何か思うとしたら、〝またやってるよ〟ってくらいだ。

「うわー、まけたぁ」

「よっしゃ! やりぃ!」

 今日の勝者は、ケイゴらしい。

 あたしは自分の分のあげパンを食べきって、牛乳を飲んで、デザートに手を伸ばした。ケイゴのほうを、ちらりと見る。と、その時――



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