第3話
あたしはやったー! って思った。
みんなは、「ふーん」って感じの顔をしてた。あたしは、喜びを声や表情に出しちゃいけない気がして、そっと心の中でガッツポーズをした。
いざ国語と算数の教科書しか入っていないランドセルを背負ってみる。そうしたら、みんな、この〝全部入っていない素晴らしさ〟に気づいたようだった。
軽~いっ! ってはしゃぐ子や、今まで重くて、だから変な立ち方になれてしまっていたのか、前にずこって転ぶ子がいた。
「ランドセルが軽いって、いいね!」
あちらこちらから、喜びの声が聞こえる。
あたしは、みんなと同じように喜びながら、心の中でニヤニヤした。
だって、ことの始まりは、あたしのひそかなお願い事のおかげだと、信じて疑わなかったから。
でも、それから何を想っても、想ったことが現実になることはなかった。
だから、あれはまぐれだったんだ、って思った。
時々まれに、お願い事が叶うことがあったけれど、時々まれだったから、やっぱりこれもまぐれなんだって思っていた。
そして、叶うのは時々まれだから、頭の中を包み隠さずに話したりもした。
友だちに話した後、それが実現したら、「ジュアすごーい!」ってキラキラした目で見られたりする。そういう時、あたしはまぐれだって思っているから「たまたまだよ」って謙遜する。
だけど、五年生の時に起こったある出来事をきっかけに、「たまたまだよ」は「まぁね」に変わった。
月初めには必ず、給食のメニュー表が配られる。
あたしはそれを見て、次の週にレーズンパンが出てくる日があることを知ってしまった。
あたしは、レーズンパンが好きじゃない。パンは好き。だけど、レーズンが嫌いだから、レーズンパンは嫌い。
――レーズンパンなんて食べたくない。あんなもの出なくなればいいのに。あげパンになればいいのに。
そう心の中で想いながら、口を尖らせた。
どんどんと近づいてくるレーズンパンの日。授業が終わって、家で宿題とにらめっこしながら、心の隅にいるニヤニヤしたレーズンパンを睨む。
心の中にレーズンパンがいるのを感じると、どうにもこらえられなくて、大きなため息をついていた。
するとその時、お母さんのスマートフォンがピロン、って鳴った。
「あ、ジュア」
「ん、なに?」
「こんどのレーズンパン、あげパンに変更って連絡来たよ」
「え? うそ」
「本当。不思議ね。レーズンパンをあげパンに変更するだなんて。鉄分のバランスが崩れそうだし、揚げるの大変そうだし。ずいぶんと急だし。一体何があったのかしらね」
お母さんはなんだか小難しいことを言っているけれど、そんなことはどうでも良い。
やった! あげパンだ!
あたしの心の声が、給食センターに届いた!
嬉しい、と思う。そして同時に、どうしてだろう、とも思った。
今までは、まぐれだ、で済ませてきた。でも、これには何か、ルールみたいなものがあるんじゃないかって考えた。
きっと、これまでのことだって、なにかルールにのっとって実現していたんじゃないか。
仮にそうだとすれば、あたしはあたしの心の声を、思った通りに現実にできるんじゃないか――?
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