1.きっかけ

第2話


 あたしがはじめて〝あたしは呪い屋さんかもしれない〟って思ったのは、笛が付いたピカピカのランドセルを背負っていた頃のことだった。

 その頃、あたしはとっても、モヤモヤしてた。

 なんでこんな決まりがあるんだろうって、いろんな〝こうしなきゃいけない〟ってことに、モヤモヤしてた。


 まず、ランドセルのことでモヤモヤした。

 ランドセルには教科書やノートをたくさん詰めるから、背中が重くてスキップできない。

 つぎに、かわいい防犯ブザーをつけていたら先生に「配った笛だけつけてください。防犯ブザーはいけません」って言われちゃって、なんだかへんてこりんな笛をつけさせられた。

 モヤモヤしたことは、まだまだほかにもある!

 交通安全カバーとかいう、黄色いやつもつけさせられた!

 これじゃあ、せっかくのかわいいあたしも、ピカピカでかわいいランドセルも台無し!

 雨が降ったらカッパを着てください。傘はダメです。

 長靴は履いてこないでください。体育の時に困ります。

 同じ方向へ帰る人と一緒に帰ってください。

 キャラクターグッズは持ってこないようにしてください。

 服装は自由ですが、後ろの子の集中を妨げないよう、背面にキャラクタープリントがある洋服はできるだけ着用を控えてください。

 覚えられないくらい、決まりごとがある。

 それを、守れていないと注意される。

 とっても怖い言い方をされるわけじゃないけど、注意されると気分が悪い。

 だからあたしはいつも、ぶぅぶぅ言いながら学校へ行っていた。


 防犯ブザーと交通安全カバーは、けっこう早く諦めた。

 ブザーのかわりに笛があれば充分らしいし、カバーは地域のみんなで見守る〝小さい子の目印〟でもあるみたいだし。

 仕方ないと思えたから。

 でも、なんで毎日教科書を全部持って帰らなくちゃいけないのかは、さっぱりわからなかった。

 わからないから、なかなか諦められなかった。

 全部宿題で使うなら仕方ないけどさ、使わないんだよ?

 ただ、持って帰るだけ。

 それで、次の日の時間割に合わせて、ランドセルの中身を入れ替える。

 そうしたら、何が起こると思う?

 あたしも何度かやっちゃったんだけど、必要な教科書を家に置いてきて、置いてきてよかった教科書をランドセルに入れちゃってたりするんだ。

 次の日の準備をしないで登校したわけじゃない。頑張って整えたって、そんなことは起こるんだ。

 だいたい、持って帰るから忘れるんだよ。

 誰なの? 全部持って帰るっていうルールにした人。

 ――ああ、重たいな。教科書を学校に置いておけるようになればいいのに。

 そう心の中でグチグチと文句を言った。時々、本当に呟いちゃったこともある。

 そうしたら、その何日か後、みんなにアンケートが配られたんだ。

 アンケートに答えるのは、大人だった。でも、子どもと一緒に考えて答えてくださいねってやつだった。

 お母さんは、そのアンケートとにらめっこしながら、「ランドセル、重い?」って、あたしに訊いた。

 あたしはランドセルの重たさを伝えるために、いろいろ言った。重くてスキップできないとか、宿題に必要なのだけでいいじゃんとか。

 お母さんはチェックをいれたり、丸をしたり、文字を書いた。それを連絡袋に入れて、次の日、学校へ持っていって、先生に出した。


 アンケートは一日で集まらなくて、全部集まるまで一週間近くかかったような気がする。

 アンケートが全部集まってからも、しばらく何も起きなかった。だから、〝あのアンケートは一体何だったんだ〟って、あたしは不満をこぼした。

 アンケートのことを忘れて、何も起こらないって諦めようとしたころ。帰りの会のお話の時、先生が言った。

「今日から、国語と算数の教科書だけ、持ち帰ってもらうことにします。そのほかの教科書は、後ろのロッカーか、机の引き出しにしまってください」



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