第二章 父様と一緒

十三話 第三皇子は見た!



 ◆◆◆◆



 エレフェリア帝国帝城自室


 第三皇子ルカルージュ=アルテール=エレフェリア



 初めて外に飛び出した日からはや一週間。時間はあっという間に過ぎていった。

 自分の部屋の大きなベットに、俺は体を預ける。柔らかくて大きなマットレスが、俺の全身を包み込んでくれる。

 

「ああもう! 見張りが厳しすぎる!」


 俺はベットの上で足をばたつかせながらそう叫ぶ。

 誰かにうっかり聞こえたりすることはない。この個室は、防音機能はバッチリだし、声が広がらないように結界も張っているからだ。


 はぁ……。本当に見張りが厳しい。

 さっき口で叫んだことをもう一度心の中で呟く。


 書き置きだけ残して、勝手に外に出かけてから一週間。いろんな人に見られている。部屋の中は流石に見張りはいないんだけど、外に出ると、常にじーっと見られてるし、城全体の監視が厳しくなっている。

 全部自業自得なんだけどさ、城の居心地が悪すぎる。


 俺はベットから起き上がって、部屋の外に出る。そして、移動を開始する。

 移動していると、ジロジロとメイドさんが、執事の人が、騎士の人たちが、俺のことを見てくる。こちらのことを観察してくる貴族の人もいたけれど、多分これは興味で観察しているだけのことだろう。貴族社会でも、第三皇子のことを知っている人は少ないのだから。だけど、貴族以外の城の関係者は、確実に俺のことを見張っている。

 

 そんな見張りの目が、唯一届かない場所が存在する。

 それが……


「父様! 今日はこの部屋にいていいですか!」

 

 ノックをして、返事が返ってくる前に父様の部屋の中に入り込む。

 入ったのは、父様の部屋だ。勝手に入っていい場所じゃないけれど、用があったらきてもいいよと言われているので遠慮なく飛び込ませてもらう。

 ここには、親友のラドルさんでも入ることができない。

 一番の強敵ラドルさんがいないのだ。

 つまりこの部屋が俺がずっと見張られていない唯一の場所。


 父様の部屋は、俺の部屋の倍以上の大きさだ。

 執務室よりも小さな机とたくさんの本が置かれている場所と、仕事が全く関係ない完全な趣味の場所に分かれている。

 父様って裁縫やるんだな。

 俺は、部屋に入って初めて父様の意外な趣味を知った。

 父様の趣味、剣術とかだと思ってたんだけど、いや、本当に意外。


 部屋の中に入ったはいいけど、父様の姿が見えない。一応部屋の奥の方までは行かないようにしてたけど、父様の姿が見えないから、父様を探しに奥の方に行ってみようか。

 父様の部屋が見てみたい!とかじゃないよ?あくまで、父様を探しに行くだけだから。


 俺は、扉の前からだと見えない、奥の方に父様を探しに移動する。

 やっぱり父様は奥の方にいた。

 奥の壁で、ゴソゴソと何かをやっている。


「……えっ、父様何やって」

「よし、書き置きはこんなふうに置いておけばいいのだろうか? よし、書き置きのセットはできた。これで俺も外に出ることができるのだろうか?」


 えっ?

 父様、今、何やってるの?

 

 俺はそう思った。

 書き置き?

 書き置きって、いなくなった後に、これから何をする予定なのかを伝えるために残しておくものだよね。じゃあ、書き置きを父様が残してるってことは……。


 ーーガコン


 父様が見ていた壁が、真っ二つになって奥に開いた。

 これって……隠し通路?!


 すごい!

 俺は興奮した。

 図書館で探してみたのに見ることができなかった隠された通路がこんなところにあったなんて!と。


 父様は、その隠し通路に入っていく。

 俺は、父様がなんで隠し通路から出ていくかが気になった。だから、父様が残しておいた書き置きを読んでみたんだ。



 ラドルへ。

 帝都を視察に行ってくるぜ!

            リベリオ



 な、なんだって〜!ちょっと父様!ずるい!なんで一人で!


 本当に心からそう思った。

 だって、羨ましいなって思ったから。

 俺が、ずっと見張られてて外に行けない時に、父様は隠し通路を通って街に行っちゃうなんて、ずるい……。

 こうなったら、俺も同じことしてやる!

 隠し通路の開け方も見てたから、そこから抜けられる。


 よし、父様の書き置きは紙の白い部分が余ってるから……こうやって……





 よし、かけた。これでいいね。 

 今日外に出られたら、今度こそ冒険者ギルドに登録しよう。この前拾ったばかりのうさぎ魔物の死体があるし、それを売れば登録に使うお金になるはずだ。

 外に出たら、まずは父様を追いかけよう。

 俺、父様と一緒に街に出掛けてみたかったんだ!


 さあ、隠し通路を通って出発!



 ◆◆◆◆


 

 エレフェリア帝国帝城


 皇帝側近ラドル=アルファンス



 ーーコンコン


「陛下……」


 ラドルは、皇帝の部屋の扉を軽くノックする。

 皇帝は、執務室にいなかった場合、貴族との会談の予定がない日は大抵自分の部屋にいる。だが、許可がないと部屋の中に入ることができないため、ノックした後、皇帝の返事が返ってくるのを待つ。


 しかし、しばらく待ってみても、返事が返ってくることがない。

 本当はやってはいけないことだが、仕方がないため、ラドルは扉を開け、中に入る。


 初めて皇帝の部屋をしっかり観察したラドルだったが、皇帝の趣味が裁縫だったことに驚く。自分の裁縫道具まで持っているなんて、それほどハマっているようだった。


 皇帝の部屋にある仕事をするような場所を通り過ぎて、ラドルは入り口からは見えなかった部屋の奥の方へ進んでいく。

 奥に行くと、まったりのんびりするためのスペースがあった。小さな丸い机があり、豪華なソファーが一つ置いてある。そして、窓から外を見ることができるのだ。

 そのスペースにある机の上に、ペンとインク、そして一枚の紙が置いてあった。ここからでは読めないが、紙には何かが書かれてる。

 その時点で嫌な予感がしたラドルは、慌ててその紙に書かれている文を読む。


「はぁ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…………」


 ラドルは、とても長くて大きいため息を吐く。嫌な予感が当たってしまったのだ。

 しかも今までとは少し違う。問題大人と問題児が一緒になって同じことをやっているのだ。


 また疲れて倒れそうになる一日が始まる……、とラドルは思った。



 ラドルが読んだ紙にはこう書いてあった。



 ラドルへ。

 帝都を偵察に行ってくるぜ!

            リベリオ


 ラドルさんへ!

 隠し通路を見つけたのでその先に行ってみます!ついでに父様と一緒に出掛けてみたかったので、合流していろんなところに連れて行ってもらいます!

                   ルカルージュ


 最初は皇帝が書き置きを残して外に出かけたのだろう。その後、それをみたルカが、書き置きを残して見つけた隠し通路から外に出て行った。

 そうラドルは予想した。


 ラドルは、書き置きの紙を持って、騎士たちが訓練している所に向かった。

 




おまけ

現在思っていること

 ルカ:隠し通路ってこんな感じなんだ!

 ラドル:はぁ゛〜〜〜〜〜〜〜……

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