七話 皇帝は心配性
◆◆◆◆
エレフェリア帝国帝城執務室
皇帝リベリオ=アルテール=エレフェリア
『まだルカルージュ様は見つかりません。あと、最近子供が誘拐される事件が帝都で起こっているようです。その件も同時進行で調べていきます。では、失礼します』
「ああ、引き続き、ルカの捜索を頼む」
皇帝は、騎士団長との定期連絡を終え、通信魔道具を切った。
「近くにお前以外誰もいないか?」
そして、ラドルに頼んで周りに誰もいないか外を確認してもらう。
外を確認したラドルが、皇帝の方を向いてこくりと頷く。それは、周りに誰もおらず、二人きりだという合図だ。ラドルがこくりと頷いたあと、すぐに皇帝は机に倒れ込んだ。持っていたペンも放り捨てて、グデーっと体の力を抜く。ラドルは、皇帝が放り捨てたペンを拾って机に置いた後、自分が普段座っている椅子にズトンと座り込んだ。
「「ハァ゛ーー……」」
皇帝とラドルは、脱力した時に出てくるような、特大で重いため息を吐いた。
「ルカが見つからない……。どこに行ったのだ……俺はルカをどうしてやればよかったのだ……」
そう、ぶつぶつと口のように言う。今話したことには、自分の息子を心配する気持ちと、皇帝自身が後悔して自分を責める気持ちが混ざっている。
「そんなに気にしなくてもいいと思うんだけど……。ルカ君なら数日したらひょっこり帰ってくるんじゃないかな?」
ラドルが皇帝のことを慰めるように話を返す。
「お前はこの状況でそんなことを言えるのか?」
そう返されてしまうと、ラドルは何も言えなくなってしまう。前向きな言葉を言って、皇帝を慰めることはもうできない。
子供を狙う誘拐犯がいる。それだけで、皇帝は脱走した第三皇子のことが心配になってしまうのだ。第三皇子が脱走してからずっと、仕事が進んでいなかった。外に出ていってしまっただけで、仕事ができなくなってしまう。
なら。誘拐されてしまったかもしれない。そんな不安の塊みたいな情報を聞いた皇帝はどうなってしまうのか。
「お前自分の息子や娘が攫われてしまったらと考えたことはあるか? もしそうなっていたらさっきみたいなことが言えるのか?」
「……。それは絶対に無理だな」
ラドルはそう答える。
自分は皇帝にそう言ったが、よく考えてみると、もし血縁が大切な人が今回と同じような状況になった時、確実に焦ると言えてしまう。
皇帝ほど様子がおかしくなったりしなくても、やはり心配にはなる。本人が思っているよりも過剰に。その過剰の部分が、その気持ちをぶつけられている本人の反発につながるのだろう。
「だろう。俺だって心配なんだ。心配になってしまうからこそ、それが本当にならないように外に出さないようにしてきたんだ」
皇帝が自身がどれだけ心配しているかをつらつらと語る。
今まで外に出そうとしなかった理由。それが全て心配だったからだと。普段城の中では自由にさせていた理由は、それのお詫びみたいなものだと。
外に出そうとしないのが、なぜ第三皇子だけなのかも。
第三皇子ルカルージュは先祖返りである。はるか昔、エルフと交わったことがあったという。ごくたまにそういうことがあったそうだ。そのため、第三皇子の耳は、エルフと同じように尖っている。そして、見た目もどの息子娘も可愛いが、その中でも特に整っていると。
そして、他のものより賢い。さらに運動神経もいい。ここまで揃っている子供も珍しいだろう。
心配性の皇帝は、悪い想像ばかりをしてしまい、第三皇子を外に出さないようにした。周りになるべく知られないようにした。そのため、帝国民のなかに第三皇子の存在は知っていても、名前まで知っているものはいない。
「だから、俺は、外に出ていったルカが心配なんだ」
「……リベリオ。流石に私も言いたくなることがある。いくら心配だからと言って、外に出ることすら制限することはないだろう」
ラドルは呆れていた。自分でもそこまで酷い親バカではないと。絶対に外に出さないようにするほど心配性でもないと。流石にやりすぎだと。
「……それでも心配なのは変わらないんだ。俺は……」
「おい、リベリオ!大丈夫か!?」
立ち上がってラドルに言い返そうとする皇帝。だが、ふらりとバランスを崩し、倒れ込んでしまった。皇帝は体調を崩してしまったのだ。まだ、第三皇子が脱走してから一日も経っていないのにも関わらずだ。
「人を呼ばないと……それにしてもこの親友、重いな。今すぐ下ろしたい。」
こんな状況で、ラドルはものすごく失礼なことを言っていた。
現在思っていること
皇帝リベリオ:心配+「絶対に助けるからな……(寝言)」
補足:寝込んだ皇帝は、第三皇子が誘拐された夢を見ていた。
ただ、実際当たっている。
ラドル:親バカすぎる
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