六話 ハジメテの誘拐
「ん……んん?」
ここは…?あれからどうなった?少しずつ頭の中がはっきりしてくる。
体をモゾモゾと動かす。ゴロリと寝返りを打つ。
地面がものすごく硬いな。冷たくて、なんかじめッとしてて不快感しかない。
近くでゴソゴソという音が聞こえた。なんだ?目を開けて音の正体を確かめようとする。
「どこだよ……ここは」
目が覚めると、俺は全てが石で囲まれた窓のない部屋にいた。
それと……手足のこれはなんだ?チャリチャリと音が鳴る手足についているものを観察する。これはどうやら、うまく動かせないようにするための拘束具らしい。縄だったら抜けられたかもしれないけど、これは壊せないな。流石に頑丈すぎる。
とりあえず、ここはどこなんだよ。外の情報が何もわからない。
周りをとりあえず見てみると、さっきのゴソゴソという音の正体がわかった。音の正体は、俺よりも大きかったり小さかったりもするが、近い年齢の子供だった。全員、俺と同じように手足に拘束具をつけられている。そこにいる人はみんな疲れてるみたいで、泣いている子供もいる。全部で十人くらいかな。
そういえば門にいた兵士の人が、子供を誘拐する誘拐犯がいるって言ってた気がする。俺は、そんなことを今になって思い出す。
今思い出したということは、そういうことなんだろう。そう、自分のことを納得させる。
「俺は誘拐されたのか」
その事実を受け入れよう。
さて、とりあえず、近くにいた子供に話しかけてみるか。
「ねえ、ちょっといい?」
近くにいた、泣いてない、俺よりも年上そうな子供に話しかける。泣いている子を慰めていた大人っぽい女の子だ。
「あら、ちょっと前に運ばれてきたエルフの人? どうしたの? もしかして怖くなっちゃった? 大丈夫、泣いてもいいんだよ。」
女の子は、俺に両手で抱きつく。そして、背中をさすってくれる。
そんなことされなくても、平気なんだけどな。
だけど、される分には嫌じゃないかな。わざわざ拒否する必要もないし。
「平気。泣かないよ」
「そっか。泣かないのはえらいね〜。ずっと泣いてる弟にも見習ってほしいよ」
なるほど。女の子がさっき慰めてたのは弟だったのか。ずっと泣いている子供につきっきりになっていたのにも納得だ。
「泣いちゃダメっていうのも無理があるよ。だって、こんなことに巻き込まれることってほとんどないでしょ?」
「そう言ってるあなたもすごいよ。泣いてないし冷静でしょ?」
まあ、いざとなったら誘拐犯が一瞬で潰れるような切り札を持ってるからね。しかも精神は普通の子供より大人びてると思うし。
それは冷静にもなるよ。いつでも脱出できる誘拐なんて何も怖くない。
誘拐は家に帰るかわからないから怖いんだ。確実に家に帰れるから怖くなるわけがない。
ただ、問題が一つ。その家に帰れる方法は、俺しか帰れないし、帰るとまた城を脱走するのにいつまでかかるのやら。
だから俺だけ逃げることはしない。
「ねえ、逃げたい?」
「えっ?」
言っちゃった……。やろうと思ったら絶対できると思ったから、言っちゃった……。あーあ。大変になるのわかりきってるのに。
「僕、逃げたい!」
驚いた。さっきまで泣いていた小さな子供が立ち上がってそう言ったから。
「わたしもパパとママのところに帰りたい!」
「俺も帰りたい!」
やっぱり長い間親に会っていないと寂しいものなのか?疑問に思った。俺は現在城から逃げ出している状態だからだ。ずっとそんなふうにしていれば、そのうち帰りたくなるのだろうか。帰りたいと言っている、親に会いたいと言っている子供達を見ていると気になってくる。
さて、とりあえずこの子供達を、帝国の民を家族のもとに送り届けますか。
「じゃあ、みんなで父様と母様のところに帰ろう!」
「「「「「おう!」」」」」
「そういえばなんだけど名前を聞いてもいい?私の名前はフィオだよ。」
女の子……いやフィオが聞いてきた。
「う〜ん。なんていえばいいかな……。とりあえずルカって呼んでよ」
「ルカっていうんだ。やっぱりルカってお偉いさんなの?」
「どうしてそう思ったの?」
フィオにそう聞かれて少し驚く。俺は偉い!って雰囲気を出してたつもりは全くないんだけど……。
「だってさっきパパとママのことを父様とか母様とか言ってたでしょ。普通はそう呼ばなもん」
「そうなんだ」
なるほど。街で暮らしている人は、様をつけて呼んだりはしないのか。今度父様と母様にあったとき、パパとママって呼んでみようか。
「ねえ……外に出ないの?」
横でずっと待っていた子供の一人が話しかけてきた。ものすごく心細そうだ。放っておいた俺も悪いんだけど。
「ごめん。ちょっと遅くなっちゃったね。さっさと出ようか」
そう言いながら、ささっと手足につけられていた拘束具を外す。外れた拘束具がゴトリと地面に落ちた。自由に動かせるようになったからスッキリだ。さっきは外せないとか言ってたけど、それは素手でやった時の話だ。魔法を使えばどうってことはない。簡単に外せる。
「ええ!? どうやって外したの? 私たち何回も外そうとしたのに外れなかったんだよ!?」
フィオが目を見開いて驚く。周りにいた子供たちも、外れることがわかって盛り上がる。というか、こんなに騒がしくして問題ないのだろうか。俺やフィオたちを誘拐した奴が、気がつくかもしれないのに。まあ、気づいたら気づいたでいいか。その前に脱出すればいいし。
「魔法を使えば簡単だよ。じゃあみんなのも外していくね」
子供達が俺の周りに集まってくる。みんなのものも外していく。
「じゃあ、逃げようか! 後ろについてくること。前に出過ぎないこと。この二つは絶対守ること。いいね!」
「「「うん!」」」
「「いいぜ!」」
「「「「行こう!!」」」」
ドゴーン!!
とりあえず、出入り口がわからなかったから壁を破壊した。良かったよ。建物が壊れなくて。
さあ、脱出しよう!それでついでに誘拐犯にあったらボコボコにしよう。俺、実践したことないから手加減の練習をしたいし。
おまけ
現在思っていること
ルカ:脱出だ! 子供達:パンチ一発で壁を壊した……。
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