五話 ハジメテの外
◆◆◆◆
第三皇子ルカルージュ
「身分証明できるものを出してくれ」
「これでいいか?」
ガウルたちが自分の冒険者ギルドカードを取り出して、街の門に立っている兵士に見せる。兵士の人は、身分証を見て、指名手配されていたりしないかを確認する。
身分証を確認する。わかりやすくいうと、いろいろ自分のことを調べられてしまうということだ。流石に、どんな人物かはわからないみたいだがな。つまり、冒険者に本名で登録していると、秒でバレて情報が回ってしまう。
「で、そちらの子供は?」
兵士の人が俺のことを見てガウルたちに聞いた。
「こいつは、冒険者になりたいって言って今日ギルドに来たんだがな、金を持っていなかったせいで登録できなかった可哀想なやつだ。金を稼ぐために、俺らが付き添いを頼まれた」
「なるほど。そういうことか。金がないとは大変だな。頑張って稼げよ」
「分かってる」
それくらい分かってるよ。絶対に稼いで俺は冒険者になる。
「じゃあ、頑張ってこいよ。あと、そういえばなんだけどな、最近子供が誘拐されることが増えているらしい。一人にならないように気をつけろよ。」
兵士の人が応援してくれる。これも嬉しい。
それと、人攫いか……。子供を狙って誘拐している。確実に計画的な誘拐だな。俺も子供だから気をつけないとな。うっかり連れてかれたら困るし。
「分かった。行ってくる」
俺は、ガウルたちに連れられて外に出た。
「おお!!」
初めて街の外に出た。目の前には整えられた道。広い草原、草原の終わりには巨大な森。帝国の帝都を囲むようにその二つが広がっている。
「驚いただろう?」
ガウルがドヤ顔で俺にそう言ってきた。なんでガウルがドヤ顔をするんだろう。帝国はガウルのものじゃないのに。どちらかというと父様が運営している土地なのに。
「なんでガウルがドヤ顔してるのよ」
「別にドヤ顔したっていいだろうよ。俺らの方が先にこの景色を知ってたんだぜってな」
テリアが俺の思ったことを言ってくれた。そしたら、ガウルも理由を返してきた。その理由に俺は納得した。確かにこの景色はすごくいい景色だ。この景色を前から知っているのを俺は羨ましいと思ったし。
「じゃあいくか。そういえば、お前、名前はなんていうんだ?」
「知らなかったのか!?」
知らなかったのかよ。そういえば俺も教えてないな。でも、それは好都合だけど。
もし、俺が第三皇子ってことを知ってたら、偽名を名乗っても意味が全くないからな。帝国民に姿を見せたことがなくてよかったと思ったよ。全て父様が俺を外に出そうとしなかったのが原因だけど。
「教えてもらってないもの」
「そっか。俺はルカっていうんだ」
「そうか、ルカか。じゃあいくぞ」
ガウルたちは先に進んでいく。って軽いな!もっとよろしくとか、一緒に頑張ろうぜ!とか、ガウルとテリアが一緒にいる他の二人の名前を教えるとかないのかよ!そう思ってしまうほど、ガウルたちはあっさりどんどんと先に進んでいく。草原を勢いよく駆け抜けて、森の方に向かっていく。
途中でウサギ型の魔物が襲ってきたが、あっという間に倒されて、道の隅にポイっと捨てられる。勿体無い!そう思って俺は、ポイっと捨てられたウサギ型魔物の死体を魔法でそっと回収する。放っておいた魔物だったら俺が売ってお金にしても問題ないよな?
もうすぐ草原の半分を超える。そういえば、この四人は俺の体力とかを考えているのだろうか。めっちゃ早いけど、もし俺がついていけなくてパタリと倒れたらどうするつもりだったんだ?そう思わざるを得ない。休憩もなしにこんなに進むなんて、いくら子供が元気でも無理があると思う。
「あのさ、俺もそろそろ休憩したい」
試しにそう言ってみる。
「もう少しだから頑張れ」
「頑張ってちょうだい」
「後にして」
「…………」
後回しにされた。というか、最後の人……黒髪の人はさっきから一言も話さないな。なんでだろう。ものすごくどうでもいいことだけど、気になる。
ボスッ
また一匹ウサギ型の魔物が切り捨てられた。また拾わず放っておいている。勿体無い!
俺は切り捨てられたウサギ型の魔物を拾う。そして、魔法でしまっていく。
そうやって、進んでいくと、森に到着した。
「森の木って大きいんだな」
森に着いた。だから、やっと休憩できると思った。ずっと走りっぱなしでだいぶ疲れてたから。
俺は、木の影に座り込もうとする。座り込もうとした俺の腕を、テリアが持ってぐいっと引き上げる。
「えっ?」
なんで?どうして休憩させてくれないの?そう思うのも当然だよね。ずっと走らされて、やっと休めると思ったのに休ませてくれないんだから。
テリアが俺の腕を強く引っ張る。
「痛っ……そんなに引っ張らなくても大丈夫だから」
「…………」
そう言っても、テリアは何も言わず、話してくれない。
これはおかしくないか?
いくらバカでも流石に気づく。
「ねえ、なんで引っ張るの? ねえ!」
「レグ……やれ。」
やっと話してくれたとおもったら、やれってなんだ?レグはきっと一言も話さなかった黒髪の男の人の名前。レグは、腕を掴まれている俺の目の前にやってきた。俺の周りを全員で囲んでくる。
「……ルカくん、ごめん……」
俺の意識はそこで途切れた。
◆◆◆◆
エレフェリア帝国帝都
帝国騎士団長フリード=ディードリヒ
「何? 子供の誘拐事件が多発しているだと?」
増員と合流した騎士団長は、今の兵士の言葉に驚き、そう聞き返す。
「はい。実際、今月だけで何人もいなくなっています」
「そうか……貴重な情報助かった」
そう言って、騎士団長は増員としてやってきた騎士と暗部のものたちがいるところに戻っていく。そして、先ほど聞いた情報を共有する。
「なるほど……子供の誘拐ですか。」
「ああ、結構な数の子供が行方不明になっている」
その話を聞いて、騎士団長はどこか嫌な予感を察知していた。そして、少しだけ嫌な想像をしてしまう。もし、第三皇子がその誘拐犯に誘拐されていたらと。
もしそうだとしたら、国が黙っていない。皇子だということを知らなかったとしても、攫っていたことには変わりないのだ。
「団長。もし、今団長が考えていることが本当なら絶対に誘拐犯は潰しましょう」
増員としてやってきた騎士がそう提案する。
「いや、どちらにしろ潰す。帝国民を攫うクソ野郎は確実に撲滅させる。国のためにも、自身のためにも」
騎士団長は、かつてないほど怖くて恐ろしい笑顔だった。にっこりと口は笑っているのに目は全く笑っていない。それどころか冷ややかで標的しか見ていないような気もする。
「確かにそうですね。僕たちはそのために作られていますね」
暗部の一人が納得する。
「じゃあ、騎士たちはこのまま皇子の捜索。暗部の奴らは誘拐犯の情報を探しつつ、皇子を探してくれ」
「「「「「了解!!!!」」」」」
騎士団長は、配下の騎士を連れて、暗部は暗部でそれぞれ行動を始めた。
おまけ
現在思っていること
ルカ:衝撃 騎士団長:誘拐犯…もしいるならすぐに潰そう
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