四話 ハジメテのギルド



 ◆◆◆◆



 第三皇子ルカルージュ



 よし。騎士団長を巻いたところで、冒険者ギルドにいこう。これが俺の今日城から出てやりたかったことだ。

 冒険者には、冒険者ギルドで登録することでなることができるらしい。本に書いてあったことが本当のことならば。冒険者になれば、依頼を受けるっていう名目で外に出ることもできる。それに、報酬ももらえるらしい。冒険もできて、ご褒美ももらえるならなるしかないよね。俺はあの時読んだ本みたいに色んなところに行ってみたいんだ。


 よし、冒険者ギルドにいこう!

 俺は、大通りを適当に走り回って探していく。みているだけで色んな屋台があった。肝心の冒険者ギルドは全く見つからないけど、果物屋とか、魔道具屋とか、城にはなかったものがたくさんある。


 果物を近くで見ていると、お店の人が挨拶をしてくれた。しかも、良かったらどうぞって一つ果物をくれた。食べてみると、口の中に甘い汁と香りが広がって、鼻の中まで抜ける。今まで食べたどの果物よりも美味しく感じた。


 しっかりお礼を言ってから、その通りを離れた。

 それから色んな通りを回っていく。


 冒険者ギルドの場所?

 知らないよ!これから人に聞くんだ。

 さっきの果物屋の人にも聞けば良かったね。まだ近いから戻って聞いてみよう。


「あれ? さっきもここにきたわよね。どうしたの?」

「お姉さん、さっきは果物ありがとう。聞きたいことがあって戻ってきたんだけどいい?」

「あらあら、私もう歳なのにお姉さんって言ってくれて嬉しいわ。聞きたいこと? 何を聞きたいの?」


 歳なのにって俺からしたら結構若く見えるんだけどな。まだシワと言えるほど目立つ顔のシワも見つからないし、声も綺麗だから。


「冒険者ギルドの場所を教えてください!」


 俺は聞きたいことを聞いた。場所がわからないから誰かに聞くしかない。しかもちゃんと教えてくれそうな人に。果物屋のお姉さんは、きっと教えてくれると思ったから聞いてみたけど、教えてくれるかな?


「あら? 冒険者になりたいの?」

「うん。なりたい。」

「そうなの! 冒険者ギルドに行くにはね、この通りをまっすぐ行くと広場って呼ばれる広い場所に出るの。その広場に着いたら右に曲がってまたまっすぐ行けば、左に冒険者ギルドの看板が見えるはずよ。」


 お姉さんは、ものすごく丁寧に教えてくれた。

 この道をまっすぐ行って、広場に行ったら右に曲がってまたまっすぐ。左に冒険者ギルドの看板っと。


「看板には何が書いてあるの?」

「看板? ああそれを言い忘れてたわ。看板にはね、剣と防具が描かれてるわ。」


 なるほどなるほど。看板には剣と防具が描かれている。そこに入ればいいのか。


「教えてくれてありがとう。ここの果物は美味しかったからまたくるね!」

「じゃあ気をつけてね。」


 お姉さんは手を振ってくれている。こういうふうに優しくしてもらえるとものすごく嬉しいな。お姉さんの優しさで心が暖かかくなる。お姉さんのおかげで俺は冒険者ギルドに行くことができる。

 早速行ってみよう。


 教えてもらった通りにまっすぐ進むと、大きな開けた場所に出た。

 真ん中には巨大な噴水。色んなところに何人かが座れる長い椅子が置いてあって、屋台とかもたくさんある。屋台じゃないしっかりとしたお店もあって、人もたくさんいる。

 俺が来た道以外にも道があるから、色んな道から来た人がここに集まっているのだろう。


 で、この広場に来たら、右に曲がって右の道をまっすぐ。

 その道に入ると、さっきの道よりも武器を持っていたり、防具を着ていたりしている人が増えてきた気がした。通っている人も、男の人の方が多くなっている。


 さらにまっすぐ進んでいくと、剣と防具が描かれている看板を見つけた。


「あそこが冒険者ギルドか。いこう!」


 俺は見つけられたことが嬉しくて、その看板の場所に向かって走る。


 この建物が冒険者ギルド…。この中に入って冒険者になれば、素敵で自由で魅力的な冒険ライフの始まりだ。さあ扉を開けて中に入ろう。

 

 気合を入れて勢いよく扉を開けようとした時、ギシッ…グアーッと勝手に扉が開いた。


 危なかった。これは外に開く扉だったのか。前にいたから開いた扉にぶつかりそうになった。というか、扉が鼻を掠ったよな。今。

 しかも自動ドア……自動扉だった。勝手に開くってなんだよ!思いっきり、勢いよく開けようとした俺が恥ずかしい。

 扉を開けようとしているポーズの状態の俺に、なんだこいつ?って感じの視線が突き刺さる。その謎のポーズをさっとやめて、静かに建物の中に入る。すると、扉が再び動いてギィーっと閉まった。


「わあ!!」


 うっかり子供みたいな声を出してしまった。子供だから出しても問題ないけど。


 ここが冒険者ギルドの中か。

 思ってたより綺麗。そう思った。俺の勝手なイメージだけど、もっと汚くて、匂いもきついのかと思っていた。実際は結構違くて、中は綺麗。石でできている床に、赤いカーペットが敷いてある。たくさんの人が入れるように広く作られていて、外から見るよりも広く見える…気がする。空間魔法を使ってるのかもしれない。

 入り口から右には受付?みたいな女の人が座っている場所があって、そこには人が何人も並んでいる。

 左側にはたくさんの紙が貼ってあって、そこにもたくさんの人がいる。きっとあそこが依頼をはってある場所。あそこに貼ってある紙をビリって破って受付に持っていくのは、ものすごく楽しそう。


 どうやったら冒険者になれるんだ?とりあえず今道のど真ん中でぼーっとしている俺の隣を通り過ぎていった人に聞いてみよう。

 俺は、隣を通り過ぎた四人のうち一人の男の人に話しかけた。最初に見た時、狼耳でかっこいいなって思った人だ。


「冒険者さんちょっといい? 俺も冒険者になりたいんだけど、どうやったらなれるの?」

「あ゛?」

「……………………」


 威圧された。睨まれたし、声も……。

 このまま絡まれたりしたらどうしようか。絡まれたら絡まれたで面白いからいいけどさ、できれば……ね。戦わずにいたいしね。


「こらガウル! 怯えさせないの!」


 一緒にいた魔法使いっぽい女の人が、今話しかけたガウルって人に注意する。

 

 女の人が注意してくれたけど、俺、別に怯えてたわけじゃないんだよな。じっとしてて気を遣ってくれたならそれは嬉しいけど。


「怯えさせてねえよ。こいつは最初からこんな感じだよ!」


 それはちょっと失礼じゃないだろうか。こんな感じって、常に俺は怯えているように見えるのか!?俺は常に堂々と自由に過ごしているつもりだ。周りに迷惑をものすごくかけているつもりだ。


「ねえ、君。君は何をガウルに聞きたかったの? お姉さんが・・・・・教えてあげる」

「ありがとうおばさん。俺、どうやったら冒険者になれるのかを聞きたいんだ」

「おばっ……ぶふっくぅ!!」


 ガウルが吹いた。

 おばさんってところに吹いたのか?どう見てもおばさんだろう。厚化粧してシワを隠してるのがバレバレ。隠すならお祖母様みたいに上手に隠さないと。俺のお祖母様は本当にお祖母様?お姉さんじゃなくて?って思うほど、美人だから。それにさ、お姉さんって強調しすぎだと思うから。


「あら、そうなの。冒険者に……ね。それなら、正面にある受付でカードを作って貰えばいいわ。冒険者になったら同業ね」

「ありがとうおばさん。」

「……っ!フゥー、フゥ〜ゥゥ……ガフッ!」


 ああ〜ガウルがツボってる。それに気づいた女の人がガウルを殴った。最近の女の人ってワイルドなことが多いんだな。


 さて、冒険者になる方法も聞けたし、早速受付でカードを作ろう。


 俺は正面の受付に向かった。


 受付の人に声をかけようとしたら、受付の机に届かない。しょうがないから空を飛ぼう。はぁー、魔力の無駄使いだ。そういえば、周りがものすごくざわついているな。なんでだろ?強い魔物を持ち帰ってきた人がいたのかな。


「冒険者カードの発行をお願いします」

「……はい。わかりました。じゃあ、この紙に書かれている項目を埋めてちょうだい。文字は書けるかしら」

「かけます」


 受付にいた女の人が、紙とペンを取り出して俺の目の前に置いた。


 ふむふむ。名前は必須なのか。名前…どうしよう。偽名を使った方がいいな。だけど、全部違うとボロが出る。じゃあ普段から父様に呼ばれているルカにしよう。

 よし、他の項目も埋めていかないと。

 種族……種族かぁ……。


「質問があります。」

「はい、なんですか。」

「先祖返りはどう書けばいいんでしょうか。」

「先祖返り!? 先祖返りは……先祖返りした方の種族を書いてください。」


 よかった。どっちを書けばいいかものすごく困ったから。これで全部埋められるな。



「これでお願いします。」

「はい、受け取りました。」


 俺は、最終的に、こう項目を埋めた。


 名前:ルカ  種族:エルフ  年齢:5

 できること:剣術、魔法


 本当に書かないといけないものしかないから、あっという間に書くことができた。


 よし、これで冒険者になれるな。

 

「では最後に、登録料として銀貨三枚をいただきます。」


 銀貨三枚。ん?……銀貨三枚?


「えっ……オカネ、イルノ?」


 思わずカタコトになる程驚いた。お金がいるだと!?持ってない。今まで困ったことがないから持ってなかったけど、稼がないと!


「冒険者になる前でも、売ることはできるんですか?」

「できますよ。ですが、街の外に出る時もお金が必要なので、お金を持っていない場合は誰かに払ってもらう必要があります。あと、入る時も必要なので付き添ってもらってください」


 冒険者になれない?……。


「それなら、私たちがついていくわ」

「おい、テリア。なんで俺らがやらないといけないんだよ!」

「ガウルはだまる」

「……」


 女の人、いや、テリアさん。俺が冒険者になるのを手伝ってくれるのか。嬉しい。さっきおばさんとかボロクソに言ってごめんなさい。俺は心の中で謝った。


「ありがとうございます。お願いします!」


 俺は四人にお礼を言った。


「ええ、こちらこそ。ただし、面倒を見る代わりに、途中の獲物は私たちがもらうわよ」

「それは別にいいです。平気です」


 それくらいなら問題ない。外に出られるというだけでも、俺には嬉しいから。


「じゃあ、いきましょうか」

「行こう。ほら、ガウルももう話していいよ」

「…チッ」

「……………」


「じゃあよろしくお願いします」


 先に冒険者ギルドの出口に向かった四人を俺も追いかける。

 俺は絶対にお金を稼いで冒険者になる。絶対になってみせる!

 





おまけ:現在思っていること

 ルカ:お金、お金を稼がないと!  受付嬢:子供が……浮いてる……


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