三話 ハジメテの街



 ◆◆◆◆



 エレフェリア帝国帝都



 おおおおおおおお!!!


 周りを見渡すとどこをみても建物が見える。どれも城よりは小さいが数がものすごく多い。それに、それよりも人が本当に多い。右を見ても左を見ても、斜め後ろを見ても、人ばっかりだ。俺はこんなに人がいるところを見たことがない。


 俺は、城を抜け出してから、街の中心に移動した。そこに向かう途中、誰にも見つかることなかったからよかった。見つかってたら逃げないといけなかったから。


「賑やかだぁ! これが街! すごい!」


 感動する。ずっと城から見ているだけだった景色に俺はいる!


 退屈することが一つもない。街は情報量の塊だ。街を見て回るのがものすごく楽しみだし、街の地理を覚えるのも面白そう。


 この場所にいるだけで、楽しく過ごすことができる。こんな楽しい世界は城にいたら見られなかった。みんな、こんなに素晴らしいところを隠していたのだろうか。だとしたら…


「みんなずるいな。騎士たちも、街のことを教えてくれてもよかったのに」


 ずるいずるいずるい。羨ましい。なんで街のことを教えてくれなかったの?

 そう思ったから、どっかで理由を聞いてみよう。なんで今まで街のこと教えてくれなかったのかって。




 ほえー。本当に街って広いんだな。たくさん人がいても、入りきってしまっている街の大きさに驚いた。

 フラフラと適当に歩いていってみる。人がたくさんいる。右には人。左には親子。


「今度、父様と母様と一緒に来てみたいな」


 もちろん、今度だけどね。誰かと来るのは俺がもう少し楽しんでからだ。



「ルカルージュ様? どこにいるのですかー?」


 うおっ。


 慌てて道の隅でしゃがみ込む。


 危なかった……。

 今、俺のことを読んでいたのは、城たまたま訓練していた騎士団長だ。きっと俺がいなくなったと知って、父様に頼まれて、探しに来たのだろう。だが、残念だ。せっかく探しに来てくれても、捕まる気なんて俺には一つもないのだから。


「それにしても、思ってたより来るのが早かったな。」


 まあいいか。どんなに早くても関係ない。俺は俺のやりたいことをやるだけだ。

 それに、捕まらないように逃げながら自分のやりたいことをやるなんて、最高じゃないか。


 さて、あの騎士からどう逃げるか…。


 一つ目、うっかり見つかって目的の場所に向かいながら巻く。多分これが一番最短距離で進める。

 二つ目、見つからないように隠れながら少しずつ進んでいく。これは、いつ見つかるかドキドキするな。緊張感があるからうっかりこけるとかのしょうもないミスをしなくなりそうだ。

 三つ目、一般人のふりをして堂々と行きたい場所に行く。堂々としていれば、気づかれないってね。


 よし、三つ目でいこう。見つかったら一つ目みたいに全力で逃げて巻く。二つの選択肢を混ぜ合わせて一つの選択肢にすれば、どっちも楽しむことができるな。

 堂々と騎士の目の前を街に暮らしているただの人として通り過ぎていこう。


 そうと決まれば、道の隅っこにいないで堂々と、堂々と真ん中を歩こう。


 ほら、俺は街に暮らしているただの人だ。五歳の街で遊んでいる自由な子供だ。騎士も絶対に気づかない。俺は紛れ込んでいるから。自然に混ざり込んでいるから。


 俺はただの街で遊んでいる子供。子供だ。


「ちょっと君、話を聞いてもいいか?」


 その声を聞いて、そのままどこかに行こうとした。そしたら肩をガシッと掴まれて、振り向かざるを得なくなる。

 振り向いたところにいたのは当然俺を探しに来た騎士団長。俺のことを聞くために声をかけたのだろう。


 見つかったか?いや、気のせいだろう。今の俺はただの街で遊んでいる子供だからな。だから無邪気に冷静に、なんで俺に声をかけたのかを聞き出す。


「うん、いいよ。だけど、なんで騎士さんは俺に話しかけたの?」

「ちょっと私の知り合いの息子が街を逃げ回っていてね。捕まえてきてくれと言われているんだ。君の外見とかなり似ていてね。一応声をかけてみたんだ」


 聞いてみると、騎士団長は笑顔で答えてくれた。

 う〜ん。バレてるの……かな?気づかれてるかな?あえて笑顔で言っている感じだな。

 念の為早めに抜け出して逃げないと……。


「へぇー大変だね。逃げ回っている人を追いかけてるなんて。あっそうだ。俺も今、父様から逃げてるんだ。俺が大事だからって外になかなか出してくれないから。だからそろそろ行くね!」

「そうかそうかー……君も逃げ回っているのか……」


 早めにどこかに行こうとした。

 騎士団長と反対の方向に行こうとした。


 だが、掴んだ肩を一向に離してくれない。それどころか、さらに強く掴まれている気もする。


「あの……離してくれないんだけど……」

「ああ、私が離そうとしていないからな」

「離してくれませんか?」

「ああ、無理だ」


 穏便に逃げ出すことは……出来なさそうだ。

 ちょっと強引になっても仕方がないな。


「なんで離してくれないんですか?」

「ああ、君は知らないのか。今ね、第三皇子が脱走しているんだよ。その見た目にそっくりだから一応……ね。」

「そうですか。頑張って捕まえてくださいね。では……」

「残念だけどもう捕まえているよ!」

「そう思っているなら残念! 俺は捕まってない! なぜって……逃げられるからな!」


 そう言い残して、俺は念の為設置しておいた転移ポイントに転移する。

 転移したのは屋根の上。ここからなら、さっきの場所がよく見える。

 俺がいなくなったことを理解した騎士団長が慌てて探している。っふ…ここからそれをみてると面白い。


 もうこのあたりにいることがバレたな。そろそろやることをやっておかないといつ捕まるかもわからないな。


「見つかるのも結構早かったな。さっさとここから離れよう」


 俺は、この通りから別の通りに向かった。



 ◆◆◆◆



 帝国騎士団長フリード=ディードリヒ



「陛下、申し訳ありません。見つけたのですが逃げられました」


 騎士団長は、第三皇子を見つけたと連絡する。

 連絡ができたのは通信魔道具があったからだ。この魔道具のおかげで、リアルタイムでの情報共有ができるようになっている。


『何? 見つけられたのに逃げられた? ルカはそんなに強かったのか?』


 皇帝は、騎士団長が第三皇子を逃してしまったことに驚いた。すぐ捕まるものだと思っていたからだ。


「いいえ、どこかに転移したみたいにいなくなりました」

『何!? 転移? 失われた魔法じゃないか!』


 皇帝が大声で騎士団長に聞く。

 失われた魔法とは、それを使えるものがいなくなってしまい、使い方すらわからなくなってしまった魔法のことだ。それを復活させたとなると、大事件になってしまう。


「はい、なので、もし皇子がその魔法を使っていたとなると私一人では捕まえられません。増員をしてもらえると嬉しいです。」

『増員はもちろんしよう。ルカは絶対に捕まえてくれ。』


 第三皇子を捕まえようと追いかける人物がまた増えてしまった。


「ところで、なぜそんなに捕まえようとするのですか?皇子が外に出たいと言っていたのを我慢させてまで。」


 騎士団長は皇帝にきく。生まれてから少し経てば、皇子も皇女も一度は外に出るのに、第三皇子だけを頑なに外に出そうとしない理由を。ここまで出さないようにしているのには、何かがあるのだろう。それが気になったのだ。


『ルカは色んな意味で特別なんだよ。見た目も能力も。何かあったら心配だろう!』

「そう……ですか。なるほど……。わかりました。必ず捕まえますね」

『ああ、頼んだ』


 騎士団長は通信を切った。


「はあ、私も流石に厳しすぎると思うのですがね」


 騎士団長はそう呟いてため息を吐く。

 今の皇帝の言葉を聞いて、思ったことがあったのだ。


「陛下は親バカすぎます。皇子が転移魔法が使えるということは、いつ脱走していてもおかしくなかったということです。脱走させないために出してあげれば良かったのですが……。とりあえず私と一緒に追いかけてくれる方と合流しましょう。」






おまけ:現在思っていること

 ルカ:逃げないと!   皇帝&ラドル:早く見つけてくれー! 

 騎士団長:困ります

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