八話 ハジメテの実戦
◆◆◆◆
第三皇子ルカルージュ
「じゃあ、いくよ」
俺がそういうと、一緒にいた子供たちが全員身構える。そして、なぜかフィオが俺の手を握ってきた。走るのにも、移動するのにも、逃げるのにも邪魔だと思うんだけどなんなんだろう。一回ぱって振り解こうとしたら、また掴まれたんだよね。
「ねえ、フィオ。流石に離してくれない?ずっと掴まれてると邪魔だよ」
「あっ…ごめんね……。」
フィオはものすごく落ち込んでいた。今、手を離して欲しいと言っただけなのに、落ち込む要素がどこにあるのだろう。
「ほら、大丈夫。元気出して!」
フィオの頭にポンと手をおいて撫でる。
俺の方が背が小さいから、ちょっと撫でるのは大変だった。
だけど、少しでも元気になってくれると嬉しいかな?
「ふふ……ありがとう!」
そのあとすぐに手を離して、弟の隣に移動する。今度は彼女の弟と手を繋いでいた。
「3、2、1……、みんな逃げるよ!」
その合図とともに、全員が破壊した壁の外に飛び出す。壁を壊した先は、どこかの施設だった。窓がないってことは光がない。きっとここは地下なんだとわかる。結構大きい誘拐組織なのかもしれない。
壁を壊してからまだそんなに時間が経ってないから、誘拐した側がここに来るのにはまだ時間がかかるはず。誘拐犯がここに来る前に全員を逃さないとね。
よし!気合い入れていこうか。初めての実戦だしね!
俺は、全員が閉じられた部屋から脱出したことを確認すると、勢いよく地面を蹴って駆け出す。あっという間に、子供達が走っている先頭に追いついた。
「お前! 足速いんだな!」
先頭を走ってた子供の一人がそういった。そう言われると嬉しい。今まで外で走ったことなんて一度もないけど、結構速い部類だと知ることができたから。前から自分に自信は結構ある方だけど、また少し自身がついたよ。
「そっちも結構速いね。思った以上だよ」
「足手纏いにはならねえからな!」
なんでそんな言葉を知ってるんだ!?子供なのに。いや……この世界に存在しない知識を持ってる
「おい! なんでこんなところにガキがいやがる!!」
「あー!! こいつら、街から連れてきたやつですぜ!」
見つかった。見つかったというよりかは、俺たちがバッタリ会いに行ったと言ったところか。向こうから来たわけではない。
地下施設の見張りという名前のサボりをしていた人だと思う。大柄で筋肉マッチョのハゲと、細身でなぜかモヒカン頭の骨。
「とりあえず、捕まえないといけやせんね!!」
「おう。ガキなら簡単だな。昇格も夢じゃないぜ!!」
おいおい。いくらなんでも舐めすぎだろうと思う。見た目が子供だからといって油断したらいけない人とかいるだろう。そんな人にあったことがないのか?そうだとしてもこれはよくない。まずは片方が逃げて、片方が足止め。時間を稼いでいる間に周りに今の状況を伝えないといけないだろう。
あと、話していること、小物感がすごい。惹きつけられるリーダーみたいな人と、この小物感あふれる人って何が違うんだろうね。
「なんでガキがこんなに強えんだよ」
「わっちもう動けまへんで」
あっけなかった。
さっきみたいに余計なことを考えながらでも戦えてしまった。というか、そもそも俺は戦っていない。子供たちが集団で襲いかかってポコポコにしたのだ。力が弱くても、たくさん集まれば強かった。
子供が強かったんじゃないな。こいつらが弱すぎただけなのかもしれない。
「よっしゃぁあ!!」
「僕たちだけで倒せたね!!」
「このまま行きましょ!」
子供達のテンションもものすごく高くなっている。自分たちだけで大人を倒すことができて、自信がついてきたようだ。このままの感じで誘拐犯が弱すぎれば俺が戦わなくてもいいけど、……まあそういうわけにはいかないよな。
「何か騒がしいと思ったらルカだったのか」
「ごめんなさいねぇ。私たちが出て来たからにはあなたたち全員金になってもらうわ」
「おい! 金じゃねえぞ!」
ガルムとテリアが現れた!!
やっぱりそうだったんだ。ずっとそうじゃないかなって思ってたけど、当たってなんて欲しくなかったな。
二人の格好は、出会った時の冒険者の服とは違う。これはなんかの組織の服装だ。内側は変わってないけど、外側に黒い変な模様が描かれているローブを着ている。
「みんなは先に行っててね」
ドゴーン!!
さっき壁をぶち破った時よりも力を入れて、思いっきり壁を殴る。すると、今度は外まで直通の道が完成した。
「ねえ、ルカはどうするの?」
フィオが不安そうに聞いてきた。
ー大丈夫だよ。安心させようと頭にポンと手を乗せて頭を撫でる。フィオは恥ずかしそうに俺の手をどかす。
「俺はこのクソ野郎を殴り倒してから追いつくよ。俺たちの領域で誘拐をしたことを後悔させないといけないしね」
少なからず、俺はイラついている。楽しい外の新鮮な冒険をこいつらは邪魔したから。戦わせてももらえず、ただただひたすら走っただけ。外を走らされただけ。
それはそれで楽しかったけど、俺は実際に魔物と戦ってみたかった。
「なあ……ヒィ!!俺らは先に言ってるぜ!」
子供達は、外直通の道を走って先に行く。
「ねえ、ガウルとテリア。君たちはさ、誰に手を出したかわかってる?」
子供達が全員いなくなって、道に俺とガウルとテリアしかいなくなってからそう言い始める。
腕をギュッギュッって伸ばしながらそう聞いてみる。
「知らねえよ。顔が良かったから連れて来ただけだ」
なるほどね……。
今の返事を聞いて、俺という存在が民には案外知られていないということがわかった。知らないって怖いよね。無知ってほんと恐ろしいよね。
「父様は俺にだけ過保護だからね。いくら強くなっても、いくら賢くなっても、絶対に外に出そうとしてくれないんだ」
「……何?」
ガウルが、俺が父親のことを父様と言ったことに引っかかる。
「何あんた。お偉い様の子供だったの?それなら好都合ね。身代金を要求できるじゃない。それで金をもらった後に売り飛ばせばいいわ!」
テリアがそういった。もしかしなくてもガウルより見ていて、話を聞いていて気分が悪い。不快感がすごい。どうやったらそこまで近づきたくないオーラを出せるのかが気になるくらいだよ。
「唯一の誤算は、俺がお偉い様の子供じゃないってことだ」
「えっ、だってさっき父親のことを父様って言っていたじゃない!」
なんでそれだけでお偉い様の子供だって思うんだろう。親を様付けで呼んでいる所なんて他にもいっぱいあると思うんだ。
「うん。父様って言ったね。だけど、お偉い様の子供じゃない。
俺は、強人、変人、奇人が揃っていることで有名な、この国で一番偉い人の子供だよ」
俺は笑いながらそう言った。
うん。ものすごくスカッとした。ずっと隠していたことを明かすってなんかやってみたいなって思ってたんだ。楽しかったー!
「えっ?だってあなたは人族じゃないわ!」
「帝国民も知らねえぞ!」
ふふ。混乱しているね。
人族じゃないのは先祖返りだからだし、帝国民が知らないのは、心配性の父様が全力で隠蔽しているから。僕は、名前も姿もわかっていない第三皇子だからね。
「まあ細かいことはどうでもいいよ。君たちは俺を怒らせて、父様を心配させたんだ。とりあえずこの組織は全部潰すよ。お手柔らかに」
ガウルとテリアが真っ青になって何も言えなくなっている時に、俺は、さっきより口角を釣り上げて、にっこりと笑った。
おまけ
現在思っていること
ルカ:手加減できるといいな!
ガウル&テリア:やばい子供を誘拐してしまった……
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