第10話  大魔王(母)降臨

『その妖精は、水辺に棲んでいたんだ。だから、水の力を持ってる』


 三人で和んでいるところに、突然不機嫌な声が聞こえてきて、みんなビックリした。


「わぁ!!」


「ん?」


「わぁ~ん!!!!」


 特にアベルは、とても驚いて大音量鳴き声の衝撃波をだした。

突然現れた赤茶色の髪の女は、思わず強力な風の結界を張った。


「こら、大概にしとけよ」


怒って、三人に向かって風を吹かせた。

強風にアベルとタケルがは転がった。


「良く言うな……自分で放り込んでおいて」


 勇者が、二人の前に出る。 


「だから、回収に来ただろ」


 勇者の言葉に、女はため息まじりに言った。

 勇者は、妻の隣に行った。


「目的の場所は、見つかったか?」


「ああ、僕には夢だと思ってた事がこの世界では、魔王退治の勇者召喚だったとはね……場所は分かったよ、目印もつけてきた……」


「そうか……」


 勇者は、妻と話を終えると二人に振り向いて言った。


「君たち、良かったね! 迎えが来たよ」


 アベルとタケルが顔を上げると、問答無用でこのダンジョンに放り込んだ張本人がそこにいた。


「ママ」


 二人同時に声を上げた。


 アベルとタケルの母が、こめかみの血管が浮いたを勇者は見逃さなかった。


「アベルはともかく、なんであれだけ仕込んだタケルまでパパ、ママ呼びに戻ってるんだよ」


「ごめんなさい、は……母上……イロイロあったから……」


タケルは、しゃくりを上げながら、言い訳をした。


「ずっと、見てたから知ってる、風の奥方にダンジョンの様子を配信してもらっていたからな」

 

 エル、ロイル家の女当主は、もうかなり身長の伸びた次男の頭を撫でた。


「この妖精は、お前が世話をしてやれ!お前の家系に水の守護がつくからぞ」


「ぼくの家系?」


「ごめんな、12歳でロイル家の次期当主の代わりを押し付けて……いずれお前には、分家として本家を支えてもらう立場になってもらう」


 タケルは、ホッとした。


 女当主は、次にアベルの方へやって来た。

 涙でグシャグシャの顔を、柔らかい布を懐から出すと、大ざっぱにふいてやった。


「泣き虫だな!」


 母は、アベルの顔を見て言う。

だか、次の瞬間信じられないことが起こった。

 アベルは、怒鳴られるかもと思ってビクビクしていたのだが、香りの良い柔らかい母の腕に包まれていた。


「風の王女を見事に御していたな! 使い魔の使い方も見事だ! 衝撃波は、すごい武器になるだろう」


「ママ?」


 アベルは、何か嫌な予感がした。

 母は、勇者の父とタケルに声をかけた。


「タクト、タケル、少し留守にするから、屋敷の方を頼む!」


「アンナ? アベルをどうする気だ?」


「冒険者ギルドに放り込んで、一から鍛え直す! これだけの武器があれば、ナムラ砂漠の砂蠍すなさそりだって、一人で仕留められるだろう」


「あそこか……危険はないが」


「私がいっしょだ」


 母は、機嫌良く風の精霊に頼むとアベルを連れてその場を去っていった。


「おい! アンナ!  いつ、帰る気だ?」


「アベルの背がデカくなった時だよ! それまでタケルのことは頼むぞ」


 どうやら、風の奥方はここへ置いていったようだ。奥方は、一匹でも動けるので問題ない。

風の王女の力を引き出していったようだ。

 二人が消えた後、そんな声が聞こえてきた。


「やだよー!! ママ!! 行きたくないよーー!!」


 アベルの高い声が風に乗って、ダンジョン内に木霊した。


(完)



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タケルとボクの冒険譚 ~ダンジョンなんて怖くない!!~ 月杜円香 @erisax

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