第9話  泣き虫勇者タケル

「「わ~ん!!」」


 低い声が洞窟内をこだました。


 アベルは、呆気にとられた。


「おいおい、タケル」


勇者は、かがんでタケルの涙を拭いた。


「アベルがひどいんだ~!! ぼくにまで攻撃してきて~!!」


 アベルは、キョトンとして泣き止んだ。

 そして、エア、ボールも止めた。


 魔王ではないようだ。しかも見覚えのある。顔立ちだった。

 黒髪ののっぺら顔。

 何ですぐに分からなかったのだろう。


「パパ~!!」


 アベルも勇者のところに駆けていった。

 勇者は、土まみれになっている二人の息子を愛おしそうに抱きしめた。


「そんなに怖いダンジョンだったのか?」


「だって、巨大みみずとか、スカルキラーなんか出てくるんだぜ」


 しゃくりをあげて、訴えるタケル。


「おかしいなぁ~ そんな危険なダンジョンではないはずなのに?」


 勇者は、首をかしげた。

 二人の息子は、如何に怖かったかを切々と勇者に訴えた。


「変なお兄さんがいたよ!! それからこれも!!」


 タケルは、右肩にとまっている透明な羽根のある小さな生物を指して言った。


「何? これ?」


 勇者は、タケルの肩のリドリスを見るなり驚いていた。


「妖精なんだって。でも、もうこの世界に妖精なんていないよね? パパ?」 


「うん、いないはずだよ。多分神代に滅びてる」


 リドリスは、悲しそうな顔をした。


『長い年月の間に、このダンジョンも変化していったのかもしれない、このダンジョンは、魔法の力に使われた根跡があるんだ』 


『じゃぁ、あたいの仲間は……』


『うん、残念だけど……』


 勇者は、残念そうに言った。 


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