第2話

拓海と千代が出会った場所は、時代も空間も異なる異世界だった。古い日本の村のような風景が広がる中、二人は静かに歩き始めた。


「拓海、まずはこの世界を知ることから始めましょう。」

千代が先導するように歩き出した。


「君はどれくらいここにいるんだ?」

拓海は千代に追いつきながら尋ねた。


「気がついたら、ここにいたの。時間の感覚が曖昧で、何日、何年が経ったのかもわからない。ただ、この時計がある限り、私は時の狭間に囚われているのかもしれない。」


「囚われている…」


千代の言葉は重かった。彼女が抱えている孤独と苦悩を感じ取ることができた。


「でも、君が来てくれて本当に嬉しい。私一人じゃ、きっとこの世界を抜け出すことはできなかったと思う。」


「抜け出すって…じゃあ、俺たちはこの世界から帰るために何かしなきゃいけないんだな?」


「ええ。時計の秘密を解き明かさなければ、私たちは永遠にこの世界を彷徨うことになる。」


拓海は千代の言葉に不安を感じたが、同時に彼女を助けたいという気持ちが湧いてきた。


「じゃあ、何から始めればいい?この時計の秘密って、具体的にどうすれば解けるんだ?」


千代は一瞬立ち止まり、遠くの山々を見つめた。


「まずは、時計を使って他の時代に行ってみる必要があると思う。それぞれの時代で何か手がかりを見つけられるはずよ。そして、最終的には時計の持つ本当の力を解き放つ方法を見つけ出すの。」


「他の時代に…か。けど、記憶が消えるって言ってたよな。それってどういうことなんだ?」


「時を超えるたびに、あなたの記憶が少しずつ消えていくの。今のところ私は何とか耐えられているけど、どこまで持つかは分からない。」


「耐えられる…って、どうしてそんなに落ち着いていられるんだよ?」


「慣れたからかもしれないわ。でも、あなたは違う。だから、慎重に進めましょう。」


千代の言葉には、時間の流れを超えてきた者だけが持つ静かな覚悟が感じられた。拓海は自分が彼女と同じ運命をたどることを考えると、背筋が寒くなった。


「でも、何もしないでここにいるよりはいい。何かを変えるために動かないと、何も始まらないから。」


「そうだな。じゃあ、次はどの時代に行くんだ?」


千代は懐中時計を取り出し、その針をゆっくりと動かした。時計の針が6時を指した瞬間、空気が震え、周囲の風景がまたもや変わり始めた。


「今度はどこに…?」


拓海が言葉を発する間もなく、二人は別の時代に移動していた。目の前に広がっていたのは、近未来的な都市だった。高層ビルが立ち並び、空を覆うガラスのドームが彼らを包んでいる。


「ここは…未来か?」


拓海は驚きの声を上げた。周囲の建物やテクノロジーは彼が知っている現代のものとは明らかに異なっていた。


「ええ、未来の世界よ。ここにも何か手がかりがあるはず。」


千代が歩き始めると、彼女の足元に青白い光が広がり、道を照らした。それはまるで、彼女を導くかのようだった。


「見て、あそこに何かあるわ。」


千代が指差した方向には、巨大なデジタルスクリーンがあり、そこに表示されているのは「時の番人」と呼ばれる存在の映像だった。


「時の番人…?何だそりゃ?」


拓海はスクリーンに映し出されている存在に目を凝らした。それは人間の形をしていたが、顔はなく、代わりに時計の針が何本も浮かんでいる不気味な姿だった。


「これが、この世界を管理している存在なの。私たちが時を超えるたびに、彼は私たちの動きを監視しているわ。」


「じゃあ、あいつが俺たちの記憶を奪っているのか?」


「それはわからない。でも、時の番人を倒さない限り、私たちはこの世界から抜け出せないかもしれない。」


「倒すって…あんなの相手にどうすればいいんだよ!」


拓海は焦りを感じたが、千代は冷静だった。


「時の番人には、弱点があるはず。私たちがこれまでに訪れた時代で手がかりを集めて、その弱点を見つけるのよ。」


「でも、記憶が消えるってことは、手がかりを見つけても忘れちまうかもしれないだろ?」


「だからこそ、急がなきゃいけないの。私たちがここで何かを見つけ出す前に、すべてを忘れてしまう前に。」


二人はスクリーンを目指して歩き始めた。時の番人の不気味な姿が彼らを見下ろす中、未来の街は無音のまま、ただ冷たく彼らを包み込んでいた。

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