第1話 闇夜に訪れた召喚


暗闇の中で、彼の意識が揺らいでいた。冷たい風が肌を撫で、かすかな痛みが頭に響く。彼の名はナギ。平凡な日常を送る大学生だったが、その日はすべてが変わる日となった。


「ここは……どこだ?」


ナギはゆっくりと目を開けた。目の前には広がるのは、見知らぬ風景。鬱蒼とした森の中、夜空には見たこともない星々が輝いている。足元には、古代の遺跡のような石が敷かれていた。まるで何百年も前からそこに存在していたかのような、重厚な雰囲気が漂っている。


「まさか……異世界に来てしまったのか?」


彼は混乱しながらも、状況を理解しようと努めた。異世界転生や召喚の話は、漫画や小説の中でよく見かけるものだった。しかし、現実で自分がそのような状況に陥るとは思いもしなかった。


「助けてくれる人はいないのか……」


辺りを見回すが、人の気配は感じられない。森の中には不気味な静けさが支配していた。風の音さえも消え去ったかのように感じられる。ナギはゆっくりと歩き始め、少しでも状況を把握しようと試みた。



数分が経過し、ナギはようやく森の端にたどり着いた。彼の目の前には、壮大な城がそびえ立っていた。その城は、まるで絵本の中から飛び出してきたような美しさと威厳を持っていた。壁は白く輝き、塔は天に向かって伸びている。


「ここなら、何か情報が得られるかもしれない……」


ナギは慎重に城へと向かう。城門は開かれており、中には誰もいないようだった。不安を感じながらも、彼はゆっくりと門をくぐり、城内に足を踏み入れた。


中は予想以上に広く、豪華な装飾が施されていた。だが、誰もいない。まるで、時間が止まったかのような静けさが漂っている。


「誰か……誰かいませんか?」


ナギの声が広い廊下に反響したが、返事はない。しばらく歩き続け、彼は大広間にたどり着いた。そこには巨大な祭壇があり、その上には美しい剣が飾られていた。


「これは……剣?」


ナギは剣に引き寄せられるように近づいた。その瞬間、彼の手に剣が吸い込まれるように飛び込んできた。手に触れた瞬間、強烈な光が彼を包み込んだ。


「な、何だ……!」


ナギは驚きとともに、意識が再び遠のいていくのを感じた。光の中で、彼の体が浮かび上がり、次の瞬間、彼はどこかへ飛ばされるように消えていった。



目を覚ました時、ナギは見知らぬ街の中に立っていた。そこはまるで中世ヨーロッパのような風景が広がっており、道端には商人や旅人が行き交っていた。だが、何かが違う。街の人々の様子は緊張感に満ちており、どこか異様な空気が漂っていた。


「ここは……?」


ナギは戸惑いながらも、周囲を観察する。そこには様々な人種が存在していたが、どれも見慣れない姿だった。獣人、エルフ、ドワーフ、そしてドラゴンのような姿をした者までが混じっていた。


「ここが、俺の新しい世界なのか……」


現実感がないまま、ナギは歩き出した。しかし、すぐに一人の女性が彼の前に立ちはだかった。彼女は長い銀髪を持ち、鋭い目つきをした美しい女性だった。


「あなた、何者ですか?この街で見かけない顔ですが。」


彼女の声は冷たく、警戒心が伺える。ナギは一瞬戸惑ったが、すぐに自己紹介をした。


「俺はナギ。ここに来たばかりで、何も分からないんだ。君は?」


女性は一瞬彼をじっと見つめ、そして少し柔らかい表情になった。


「私はセリス。この街の警備隊の一員です。どうやら、あなたは異世界から来たようですね。」


「えっ、どうしてそれが……?」


セリスは微笑みながら、彼に近づいた。


「あなたの持っている剣、それが証拠です。あれは、この世界に存在しないもの。異世界からの来訪者にしか持てない、伝説の剣です。」


ナギは驚きの表情を浮かべ、手に持っていた剣を見つめた。


「これが……?」


セリスは頷き、そして彼に手を差し出した。


「もしよければ、私と共に来てください。あなたには、この世界で果たすべき役割があるのです。」


ナギは戸惑いながらも、彼女の手を取り、共に歩き出した。これが、自分の新たな冒険の始まりであることを、彼はまだ知らなかった。



セリスに案内され、ナギは街の中央にある巨大な城へと連れて行かれた。そこには王が座する玉座があり、城内は荘厳な雰囲気に包まれていた。玉座の前で、ナギは深々と頭を下げた。


「異世界からの来訪者、ナギ。王がお呼びです。」


セリスの言葉に続き、ナギは顔を上げた。玉座には壮年の男性が座っており、彼の瞳は優しさと知恵に満ちていた。


「ナギよ、よくぞこの世界に来てくれた。我が名はレオン、アストリア王国の王である。」


王は穏やかな声で語りかけた。ナギは緊張しながらも、答えた。


「レオン王、なぜ俺がここに……?」


「君は、この世界を救うために召喚されたのだ。この世界には、古の時代から続く闇が迫っている。それを打ち払うためには、異世界の力が必要なのだ。」


レオン王の言葉に、ナギは驚きを隠せなかった。自分がそんな大それた役割を果たせるとは思えなかったからだ。


「俺が、世界を救う?そんなこと、できるわけが……」


王は微笑みながら、彼の言葉を遮った。


「心配するな、ナギよ。君には既に、その力が備わっている。この剣は、その証だ。」


ナギは再び剣を見つめた。確かに、この剣を手にしてから、自分の中に何かが変わったように感じていた。


「分かりました。俺にできることがあるなら、やってみます。」


ナギは決意を固め、王に向かって頭を下げた。その瞬間、彼の中で何かがはじけるように感じた。



ナギはセリスと共に、アストリア王国の各地を巡る旅に出た。彼の持つ剣は、次第にその力を増し、ナギ自身も戦士としての技を身につけていった。


旅の途中、彼は様々な仲間と出会い、共に戦いながら絆を深めていった。勇敢な戦士、賢明な魔導士、そして優れた弓使い……それぞれが持つ力を合わせ、ナギたちは闇に立ち向かっていった。


しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。強大な敵が彼らを待ち受け、数々の試練が彼らの前に立ちはだかった。


「ナギ、私たちには君が必要なんだ。君がいなければ、この世界は闇に飲まれてしまう。」


セリスの言葉が、ナギの胸に響いた。彼は、自分がこの世界で果たすべき使命を再確認し、さらに強く決意を固めた。


「必ず、この世界を救ってみせる。俺たちなら、できるはずだ。」


彼の言葉に、仲間たちは頷いた。そして、彼らは再び旅路を進み始めた。


闇の中に光をもたらすために。

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