第1話 懐中時計の秘密


大学の授業が終わり、拓海はキャンパスからの帰り道にあった小さなアンティークショップに立ち寄った。特に用があったわけではない。ただ、古びた看板が妙に気になったのだ。


「いらっしゃいませ。」


店内に入ると、年配の男性が笑顔で迎えてくれた。店の中は古い家具や雑貨でいっぱいだったが、その中でもひと際目を引いたのが、ガラスケースの中に展示されている金色の懐中時計だった。


「それが気になるかい?」

店主が拓海の視線に気づいて、懐中時計をケースから取り出し、彼に手渡した。


「綺麗な時計ですね。どれくらい古いんですか?」


「これは特別な時計だよ。ただの時間を測る道具じゃない。この時計は時を超える力を持っているんだ。」


「時を超える?」

拓海は笑いながら、その言葉を受け流した。店主の話を冗談だと思ったのだ。


「そうだ。信じるかどうかは君次第だがね。この時計を使えば、君は過去や未来に行くことができる。でも、代償が必要なんだ。」


「代償って…?」

拓海は少し興味を引かれたが、まだ半信半疑だった。


「それは時計を使ってからのお楽しみさ。だが、覚えておくんだ。時計の針を動かすとき、君の心が動く。それが何を意味するか、試してみれば分かる。」


拓海はその言葉の意味がよくわからなかったが、時計の美しさに魅了され、結局買うことにした。帰り道、彼はふと時計を見つめながら、店主の言葉を思い返していた。


「時を超える…ね。まさか、そんなことが。」


家に帰ると、拓海は時計をじっくり観察するために机に座った。時計の針はぴったりと12時を指している。ふと、何気なくその針を回してみた。


「どこまで回るんだろう…」


時計の針が1時、2時、3時と進むたびに、突然、周囲の景色がぼやけ始めた。視界が暗くなり、次の瞬間には、見知らぬ場所に立っていた。


「ここ…どこだ?」


拓海は驚き、周りを見渡した。彼が立っているのは、どうやら昔の日本の田舎のようだった。古い木造の家々が並び、道を歩く人々は着物を着ている。


「こんなことって…」


混乱する拓海の前に、突然、一人の少女が現れた。彼女は、柔らかな黒髪を肩にかけ、古風な服を身にまとっている。彼女はまるで、ずっと待っていたかのように、微笑んだ。


「あなた、時を超えてきたのね。」


「え?何のことだよ?」

拓海はますます混乱した。


「その時計、持っているでしょ?私も同じものを持っているの。」


少女は懐から似たような時計を取り出した。拓海が持っているものと同じデザインだった。


「あなたの名前は?」


「俺は、拓海。君は?」


「千代。私はずっと、あなたが来るのを待っていたの。私たちは、この時計の秘密を解き明かさなければならない。」


「秘密…?まさか、これ本当に時を超えられるなんて。」


「ええ、でも気をつけて。この時計を使うたびに、あなたの記憶が少しずつ消えていくの。」


「記憶が…消える?」

拓海は自分の耳を疑った。だが、千代の真剣な表情を見て、冗談ではないことを悟った。


「どうしてそんなものを持っているんだ?どうやって戻るんだ?」


「落ち着いて、拓海。まずはこの時計の力を理解しないと。そして、私たちはその代償を払う覚悟があるかどうかを考えなきゃ。」


「代償って、記憶が消えることか…」


「そう。そして、それは止められない。でも、今はまだ時間がある。だから、まずは私と一緒にこの世界を探検してみよう。」


千代は拓海に手を差し伸べた。彼はしばらく迷ったが、彼女の目に何か強い決意を感じ、手を取った。


「分かった。どうなるか分からないけど、まずは進んでみよう。」


こうして、拓海と千代の不思議な冒険が始まった。時計が示す運命の針は、二人をどこへ導くのか、彼らにはまだわからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る