イノーマス・マローダー







 巨大なる襲撃者イノーマス・マローダー――国際都市アジャーニアに出現した身長五〇メートルの巨大人型兵器は、はるか遠方からでもその存在を視認できるほどだった。

 当然、市民は大パニックにおちいった。なまじその巨体ゆえに遠くにいると思い込んでしまうが、実際には時速一二〇キロメートルで移動しているから、近づかれるまで暢気のんきに野次馬根性だった人々も大勢いた。

 フィルニカ王国の警察や軍隊は、この突如として現れた厄災に対してほとんど何もできなかった。まず巡回中の警官や兵士の持っている銃では、一万トンを超える大質量に何かできるわけもなかったのだ。

 真っ昼間のアジャーニア市は、逃げ惑う市民によってごった返しどうしようもなくなった。


 奇妙だったのは〈Eマローダー〉の動きである。出現時に港湾設備と倉庫街を破壊したにも関わらず、その後、この群青ダークブルーの巨神は市街地を破壊しようとはしなかった。

 〈Eマローダー〉出現に伴うパニックで負傷者は出たものの、市民に死人が出なかったのは、間違いなくこのおかげである。

 港湾部から上陸を果たした巨神はそのまま道路を突き進み、アジャーニア市の外周部を移動――やがて市街地を脱出すると、北上を開始した。


 時速一二〇キロメートルでの二足歩行を行っていた〈Eマローダー〉は、郊外に出た時点でその腕部と思われていた一対二本の前脚を地面に接触させた。

 有り体に言えば、巨神は四足歩行を始めたのである。それは類人猿の一部が行うナックルウォークと呼ばれる歩行に似ていた。

 問題はその移動速度である。それまで時速一二〇キロメートルで歩いていたに過ぎない〈Eマローダー〉は、四足歩行を始めた途端、その速度を時速三〇〇キロメートル近くにまで引き上げた。

 一歩進むだけでダイナマイト爆薬をまとめて爆発させたようなエネルギーを発生させ、地面を陥没させる怪物が、猛烈なスピードで走り始めたのである。

 地鳴りが周囲に響き渡り、砕かれた大地から土煙がもうもうと立ちこめた。


 あっという間に数十キロメートルの距離を踏破した〈Eマローダー〉の移動速度は、その出現時からは考えられないほど快速であった。

 予想進路上にあるのは、フィルニカ王都パシャヴェラ――君主であるロガキス王がいる首都であった。

 さらに偵察のため近隣の飛行場から飛び立っていた無人ヘリコプター数機が撃墜される至り、〈Eマローダー〉の存在は、フィルニカ王国にとっての明確な敵対者と認定されたのである。

 そして目標が時速三〇〇キロメートルで移動していようと、その程度の移動目標に攻撃を当てる手段は無数に存在する。


 当初、〈Eマローダー〉の破壊ないし無力化は容易いと考えられていた。どのようにしてその存在を成り立たせているかは大いに疑問だが、少なくとも抗重力場機関リパルサー・エンジンの存在はフィルニカ王国でも知られている。

 確かな技術力と資金力がある勢力ならば、このような超規格外の兵器――言うなれば超兵器を実用化するのも不可能ではなかろう。

 されどそれは、自重を軽減している仕組みを壊せば、目標が自壊することを示していた。一発や二発のミサイルで沈黙はしないだろう――だが、五〇メートルもある巨体に弾を当てるのは難しくない。

 そのような判断の下、まず王立航空騎兵隊の重攻撃ヘリ〈モラガルファ〉に出動要請がかかった。全長二六メートルもの巨体を誇る大型戦闘ヘリに、空中発射型の対戦車ミサイルを満載。

 全部で八機の飛行隊が飛び立った。


 北部でクーデター未遂が行われ、軍全体が出動待機の状態だったのも幸いした。極めて迅速にありとあらゆる兵力がかき集められた。

 まず進路上に存在する駐屯地から、狙撃砲やロケットランチャー、ミサイルランチャーを装備した重装備のバレットナイト部隊が出動した。

 さらに敵の予想進路に爆薬を設置し、〈Eマローダー〉の到達と同時に爆破して脚部を破損させる作戦も立案・実行に移された――落とし穴を掘る作戦も考案されたが、流石にタイムリミットゆえに現実性が乏しいとして却下された。

 射程二〇キロメートルを超える一五五ミリ榴弾砲を装備した砲兵部隊も後ろに控えて、敵機の足が止まり次第、集中砲火を叩き込む手はずになっていた。


 〈Eマローダー〉はその名称こそ、クロガネとラトを経由して軍部に伝わっていたが、その具体的なスペックに関しては詳細不明のままだった。

 であるからして軍部の人々が、豊富な偵察手段を持つ自軍に対して、所詮は一個の機動兵器に過ぎない〈Eマローダー〉を甘く見たのは仕方がないことだった。

 少なくとも光学観測やレーダーを用いた索敵手段では、陸上兵器には絶対的な制限が生じる。

 全高五〇メートルの高さといえば凄まじい高所のように思えるが、航空機にとっての対地高度五〇メートルは超低空飛行もいいところだ。

 より高所から優れたセンサー群を投入した側が、敵の全貌をいち早く知ることができる。この絶対的なルールの前では、身長五〇メートルの超巨大人型兵器などナンセンスな誇大妄想の産物なのだ。



――かくして地獄へのレールは敷かれた。



 〈Eマローダー〉の制御中枢、頭部バイタルブロックの中にリザはいた。科学技術に関する知見を持つ少女は、戦術データリンクに関しても高い理解度を示していた。

 ガルテグ連邦の軍事機密である〈イーグル・アイ・システム〉との連携も、容易く取れてしまうほどに。

 このフィルニカ王国において、キース・ロックウェルが憲兵に盗聴されることなく、フィルニカ全土で秘密通信ができていた理由そのもの。

 GCIという組織がその使用権限を持つ通信・索敵システムの凄まじかった。今まさに〈Eマローダー〉を迎え撃つべく、展開されている最中のフィルニカ陸軍の動向すべてが手に取るようにわかる。


『敵の分布図は丸見えだよ、姉さん! ははっ、すごいや!』


『すげー、これがロックウェルのおっさんが言ってた〈イーグル・アイ・システム〉ってやつ?』


 弟たちがはしゃいでいる。まるで新しい玩具をもらった子供のような二人が、リザにはもう、遠い思い出の中のそれと一致しなくなっていた。

 おかしくなっている――自分も弟たちも、誰も彼もが。

 あの日あのとき、リザとミロとシリルの三人で、トリニティ・コフィン・システムに融合した実験の日。


 リザだけが助かった。生身の人間としてこの世に戻ってこられたのは、どういうわけか、二人を守ると誓ったリザ・バシュレーだけだったのだ。

 ミロ・バシュレーとシリル・バシュレーは戻ってこられなかった。その肉体情報は無意味化し、何者にも取り出せない虚無の彼方に消えた。

 完全に電脳棺に取り込まれ、意識が兵器システムと癒着ゆちゃくしてしまった幼い弟たちは、いつの間にか――超人という幻想に取り付かれていた。

 それは肉体の成長も熟成もなく、意識だけが鋼鉄の化け物と一体化した人間が、その環境に適応するということだ。


 例えば、小さな子が兵隊ごっこをして遊ぶみたいに。

 例えば、何度も何度も転んだ末に自転車に乗れるようになったみたいに。

 絶大なる暴力と一体化したミロとシリルは、その力を誇示することに生きる実感を見いだしているようだった。

 〈Eマローダー〉の試験運用に携わっていた頃から、暴力的兆候の増大は認められていたが――今の彼らは、以前にも増して危うい攻撃性を増している。


「ミロ、シリル。わかってるよね、私たちの目的は――父さんや母さんを追い詰めた、ロガキスに対する復讐だよ。降りかかってくる火の粉は払うけど、無駄に殺す必要はないんだよ?」


 リザは言い含めるように大前提を確認した。

 元々、キース・ロックウェル支部長の国家転覆計画は二つあった。

 一つは反国王派を焚きつけてクーデターを起こさせるシャドウソード作戦、そしてもう一つの予備プランが〈Eマローダー〉を投入するダークファイア作戦である。

 超長距離砲撃が可能な機動兵器である〈Eマローダー〉は、仮にクーデターが成功していても使いようがあったから、こうして準備されてきたわけなのだが――いずれにせよ、バシュレー家の家族が復讐するのはクナトフ王家だけでいい。


 一家がガルテグ連邦に亡命しなければいけないほど追い詰められ、GCIの危険な実験に志願する羽目になったのは、何もかもロガキス王が悪いのだ。

 それは八つ当たり以外の何物でもなかったが、リザはそうして他人に責任を被せなければやっていられないぐらい精神的に荒んでいた。

 久しぶりに会えば、何かが変わっているかもしれないと思った。

 ミロもシリルも正気を取り戻して、狂った大量殺人なんかに声を弾ませないと信じたかった。

 だけど少女がいる現実は、どうしようもなく暗く歪んでいた。弟たちは二人ともおかしくなっていて、ロックウェルのクソ野郎をぶち殺しても心は晴れなかった。


『それなんだけどさ、姉ちゃん――それ、


『そうだよ、僕たちはもっと悪い奴らをいっぱい退治しなきゃ――』


「二人とも、何を言って……」


 〈Eマローダー〉がその足を止める。時速三〇〇キロの速度で走行していた巨体が、地面に深いわだちを刻みながら減速――慣性の法則に従って一万トン超の大質量が、地面を削りながら停止する。

 地響きを立てながら、ダークブルーの装甲の塊が立ち上がった。

 四足歩行のナックルウォークを繰り返していた巨体――前傾姿勢になっていた上半身が起き上がり、足腰の働きを補助するように、手足に仕込まれた四基の抗重力場機関が動作する。

 強烈な斥力場の力を利用して、上半身だけで数千トンある異常な質量体が、ゆっくりと起き上がっていく。



――待って、なんで私の制御を受け付けないの!?



 リザは悲鳴をあげそうになった。胴体に内蔵されている弟たちの電脳棺が、本来、リザが受け持っているはずの機体全体のコントロールすら奪っているのだ。

 索敵用戦術データリンク〈イーグル・アイ・システム〉の接続を切ろうとしたが、間に合わなかった。すぐさま制御権を奪われた。

 リザは恐怖の感情を得て、どうしようもない叫びをあげた。


「なんでこんなことするのっ!?」


 そこに悪意があれば救いがあった。だが、実際のところリザの弟たちにあったのは――ようやく得られた自由を阻むお節介な姉への反発だった。

 ちょっと反抗期に入った子供がそうするみたいな、あっけらかんとした口調で、リザは自分の方針にダメ出しされた。


『むしろなんで姉ちゃんがおれたちの邪魔するのか、わかんないよ。姉ちゃんの考えてること、バレバレだよ?』


『リザ姉さんは優しいんだね。でも僕たちは悪に屈しない――諦めない、もう二度とネバーモア


 自分の口癖を真似されて、リザは膝から崩れ落ちそうになった。

 バカみたいにレベルが低い常識や良識の話をしなきゃいけないのに、これから起きようとしている事態は、洒落にならない大量虐殺の予兆に満ちているのだ。


「ひ、人が死ぬんだよ……そんなこと、できるだけ少なくした方がいいに決まってる……!」


『姉ちゃんは優しすぎるんだよ。どうせ殺すならいっぱい殺した方が、きっと神様も褒めてくれるよ』


「違うよっ……絶対にそれは違う……ロガキスは死んだ方がいいやつだけどっ! 誰でも殺していいなんて、そんなの認めちゃいけないんだよ!」


『それにさ、姉さん――ってお父さんもお母さんも言ってたよ? 僕たちは


 電脳棺の中で、今度こそリザは絶望した。見開かれた目からこぼれ落ちる涙は、こんなときでも人間のふりをやめない自分自身の浅ましさみたいだった。

 人殺しは平気だった。顔見知りだろうとクズばかりだったから、拳銃で射殺するのも、〈Eマローダー〉で蹂躙するのも心は痛まなかった。

 だけど、何よりも守りたかったミロとシリルが、こんな風に壊れているなんて知りたくなかった。

 泣き始めたリザは無力だった。

 とっくの昔に普通の道徳を振り切っていて、兵器としての自己表現を優先するようになっていた弟たちは、無邪気に声を弾ませている。


『胸部装甲開閉、主砲電磁バレル展開……一二〇〇ミリ二二口径・液体装薬・電磁加速併用長距離破城砲〈バタリング・ラム〉……かっっこいいー! やっちゃえシリル!』


 〈イノーマス・マローダー〉の大きく前に突き出た胸部装甲が、左右に割れていく。装甲部の展開を可能にしているのは、大出力超伝導モーターの駆動部だった。機械的動力伝達系が、バカみたいな馬力で重く分厚い装甲を開いていく。

 そして怪物的巨砲が目覚める。胸部装甲の中に眠っていたそれは、戦艦の主砲と比較しても異常なサイズだった。

 ガルテグ海軍が運用している大型戦艦の主砲が四〇〇ミリメートルであると書けば、その異様さ――戦艦の三倍の直径の砲弾を発射する――がわかるだろうか。


 折り畳み式の砲身がゆっくりと盛り上がり、機械的機構によって展開されていく。片側が一三メートルもある砲身が接続され、二六メートルを超える長大な砲身が完成する。

 一二〇〇ミリ二二口径・液体装薬・電磁加速併用長距離破城砲〈バタリング・ラム〉――その名の通り、大陸諸国で君主が居座る居城を打ち砕くため設計された現代の破城槌。

 〈Eマローダー〉の足下、恐ろしく太い後ろ脚から無数のクローアンカーが地面に打ち込まれる。深々と大地に突き刺さったそれは、主砲発射時の姿勢制御を司る機構だった。


『敵の現在位置を捕捉――〈イーグル・アイ・システム〉との戦術データリンク構築――ああ、どこに撃てばいっぱい殺せるのか、丸わかりだよミロ! やっぱり兵隊さんの方が気持ちよさそうだしさ!』


 興奮した幼い少年の声。

 〈イーグル・アイ・システム〉の加護を受けている彼らは、初弾から百発百中の精度を出すことができる。

 砲弾がゆっくりと自動装填じどうそうてんされる。弾頭一発で重量一五トンを超えるそれは、異常な機械的強度の装置なしになし得ない偉業だった。

 一次加速に用いる液体装薬――機体内部に内蔵されたプロペラントタンクから供給される液体燃料が、砲弾を加速させるために機関部に充填じゅうてんされていく。

 二次加速に用いる電磁バレルに、電脳棺で発生した膨大なエネルギーが注ぎ込まれていく。

 すべての準備が整った。



『『――撃てファイア!!』』



 異口同音に少年たちの言葉が連なる。

 無垢な歓喜のさえずりに彩られて、重量一五トンの大質量砲弾が撃ち出される――液体装薬が膨張する燃焼ガスとなって砲弾を一次加速させる――さらに電磁バレルがローレンツ力で二次加速させる。

 音の速さを軽々と飛び越えて、大気をプラズマ化させながら極超音速の飛翔体が吐き出される。発射の瞬間、一万トンを超える〈Eマローダー〉の巨体は揺るぎなかったが、吹き荒れる暴風によって草木が折れ飛んだ。

 超高温の燃焼ガスの膨張と、発射された砲弾そのものが放つ衝撃波が、周囲を薙ぎ払ったのだ。

 戦術データリンクを用いることで最大有効射程四〇〇キロメートルにまで到達可能な一二〇〇ミリ砲弾が襲ったのは、〈Eマローダー〉と対峙する機甲部隊のはるか後方に展開中の砲兵部隊だった。


 一五五ミリ榴弾砲や多連装ロケット砲をはじめとする重武装の砲兵は、前線からの戦術データリンクを駆使することで精密に砲弾の雨を降らせることが可能な兵科である。

 〈Eマローダー〉との距離は二〇〇キロメートル――この部隊に配備されている火砲で最も射程が長い砲でさえ、有効射程距離四〇キロメートルが限度――常識的に考えて、まだ砲撃戦になるはずもない距離だった。

 即応能力に優れた自走砲――車両に曲射砲を積んだもの――を多数そろえていた砲兵部隊は、対砲撃レーダーで自身に迫り来る砲弾のことを知った。

 どうしようもなかった。

 どんなに頑張っても自走砲は時速一〇〇キロも出せないが、一二〇〇ミリ砲弾は極超音速――音速の五倍以上の速度――で飛来するのである。

 それでも指揮官が散開を命じた瞬間だった。




――真昼の空の下、真っ白な焔の華が咲いた。




 上空で大爆発。

 轟音と評することすら生ぬるい、文字通り殺人的な爆風と破片が辺り一帯に降り注いだ。容易く装甲板を貫通する弾殻の欠片が、運動エネルギー弾の雨となったのである。

 装甲車が砕け散った。人体が破砕されて地面にぶちまけられた。大地がえぐれて吹き飛んだ。大砲を背負った車両群が穴だらけになって鉄くずに変わった。

 半径一五キロメートル圏内すべてが危害半径となったが、その中でも爆発の中心部である半径三キロメートル圏内は原形を留めないほどの死が吹き荒れた。

 一五トンもの質量体に充填された高性能爆薬はその総量からして尋常ではなかったし、その質量の大半を占める弾殻は細かく砕けて、超硬化結晶体の断片となって人間を効率よく殺傷した。

 超高速の衝撃波が遮蔽物しゃへいぶつに隠れていた人間を殺し尽くした。二〇〇人を超える砲兵中隊が瞬時に死体の山となった。

 幸運にも即死していなかったものもいたが、数分と経たずに撃ち込まれた第二射――こちらは地面に激突して爆発――で沈黙した。

 どす黒いキノコ雲が、上空一〇〇〇メートル以上の高さに舞い上がる。




――それがこの世界において、史上初めて実戦運用された一二〇〇ミリ破城砲〈バタリング・ラム〉の被害である。




 そのおぞましい死のすべてを、リザは〈イーグル・アイ・システム〉の眼を通して知った。不幸中の幸いは、砲兵部隊が展開していたのが無人の荒野だったことだろう。もしこれが駐屯地や市街地だったなら、死傷者数の桁が違っていたはずだ。

 弟たちが桁外れの殺戮に手を染めたことを知って、少女は何をしたらいいかわからなくなった。

 うつむいて黙り込んだリザを放って、ミロとシリルは大戦果にはしゃいでいた。


『やったねシリル!』


『うん、悪い奴らをいっぱいやっつけたね、ミロ!』


 対空レーダーが敵襲を告げていた。仲間を虐殺された怒りに燃える重攻撃ヘリ〈モラガルファ〉の編隊がやってくるのだ。

 〈Eマローダー〉に搭載された防空システムは優秀で、戦闘の素人であるミロとシリルにも、何をしたらいいかすぐ教えてくれる。

 一二〇〇ミリ破城砲〈バタリング・ラム〉――幾度もガルテグ本国の試射場でテストされた主砲は優秀で、一発や二発の砲撃で不具合は出してはいなかった。しかし発射直後で放熱中なのも事実だったので、今すぐ折り畳むことはできない。

 有り体に言って、真っ先に一二〇〇ミリ破城砲を見せてしまったのは戦略上の失敗だった――そんなことを気にも留めず、破滅するその瞬間まで子供たちは止まらない。

 無垢なる邪悪は、死体の山を積み上げながら走り続けるのだ。

 その残酷すぎる現実に対して、呆然とリザは呟く。





「…………二度はないネバーモア二度はないネバーモア……」





 そうあってほしいと願い続けた。

 すがるように、嘆くように。










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