2.知久が気絶している一方で。






 ――知久が意識を失って、それを見る美少女二人。

 彼女たちは互いに顔を見合わせて、このように話し始めた。



「少し、刺激が強すぎたのではないの? 海晴」

「あー……知久、これでかなり初心だからね」



 そう言いながら、海晴は知久のシャツをピラピラとはためかせる。

 女性同士、かつ幼馴染みということもあり、海晴はさらに遠慮なくなっていた。そんな彼女を見て、眉をひそめたのは小萌。

 彼女は腕を組み呆れたようにため息をつきながら、このように指摘した。



「貴方も女の子なのだから、さすがにもう少し恥じらいを覚えるべきではないの? そうやって知久にアピールしてる、ということなのでしょうけど……」



 それは、おそらく知久の頭にはまったくない考え。

 しかし小萌の指摘はしっかり的を射ており、海晴はあからさまにムッとした表情でこのように言い返した。



「うるさいなー、いいでしょ? 『抜け駆けナシ』って約束は守ってるんだから!」

「それはそうだけど、節度というものがあるでしょう?」

「むー! じゃあ逆にアンタはどうなのよ!」

「わ、私……?」

「そうよ! アンタだって――」



 思い切り、息を吸い込んで。



「本当は知久に甘えたいのに、ただただ恥ずかしいからぶっきら棒になってるんでしょう! そっちはもっと、素直になったらどうなのよ!!」

「なっ……!?」



 その言葉に、さすがの小萌も赤面した。

 急いで否定しようと口をパクパクさせているが、図星を突かれているのか何も言い返すことができない。すなわち、それは肯定するしかない証明だった。

 そんな幼馴染みの反応を見て、海晴は小ぶりな胸をふんすと張って言う。



「……まぁ、それだったらアタシの方が有利だから良いんだけどね!!」

「く、くぅぅ……!」



 有利不利、というのは知久争奪戦についてのことだろう。

 自信たっぷりに言い放つ海晴に対し、小萌は拳を握りしめて震わせていた。それでも、聖女サイドとしてもただでは終わらない。

 おもむろにベッドの下をまさぐると、何かを天使に向けて突き付けるのだった。



「こ、これを見ても、まだ自分が有利だと言えるかしら!!」

「な……何よそれぇ!?」



 それを目の当たりにして海晴は、驚愕に目を見開く。

 小萌が彼女に見せたのは、知久の秘蔵品――要するにアダルトな本だった。どうやって入手したのかはともかくとして、表紙にデカデカと載っていたのは『豊満な果実を持った女性』である。

 呼吸が荒くなった海晴に対して、反転攻勢に出るのは小萌だ。



「知久は、このように大きな胸の女性が好きなのです! 性的な魅力に限って言えば、私の方が貴方よりも有利であると思いますが!!」

「くぅ、このぅ……!!」



 今度は聖女、自身の豊かな胸を張ってみせる。

 さすがの海晴もこれには反論の材料がないらしく、唇を噛んで悔しそうにしていた。もっともこの論争自体、知久不在で行われているため不毛なのだが。


 さて、そんな彼はいまどうしているかというと……。



「ん、うぅ……?」



 ようやく、一時的な気絶から覚めようとしていた。

 そんな様子に気付いた二人は、秘蔵品をどうしようかと慌て始めて――。



「あ、俺……もしかして、寝てた?」

「知久、サイテー」

「本当に、ありえないわね」

「へ……?」



 どうやら、ある方向性で決まったらしい。

 小萌はあの秘蔵品を知久に突き付け、海晴は蔑んだ眼差しを向けた。


 そして、異口同音にこう告げる。



「「軽蔑する」」――と。



 芥知久の高校生活はおそらく、これからも波瀾万丈になるだろう。

 天使と聖女、クセの強い二人の美少女に挟まれながら……。




 

――

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