1.三人の関係性。







 ――戦略的撤退を兼ねたコンビニで、ふと俺は考える。

 そもそも、どうして彼女たちは俺の部屋に入り浸っているというのか。それはとても単純な理由で、二人の家が俺の家を挟んでいる。つまるところ両隣が二人の家であり、彼女たちは俺の幼馴染みなのだ。

 仮に二人の家が隣同士であれば、俺はこんな目に遭っていなかっただろう。

 すなわち、俺がこんな憂き目に遭う理由は立地的なものだった。



「さて、と。……そういえば、何が良いか聞いてなかったな」



 俺はコンビニの冷蔵スペースの前で、ボンヤリと考え込む。

 かれこれ十数年の付き合いではあるが、二人の好みというのは良く分かっていなかった。というか、なるべく意識をしないようにしていた、というのが正しいか。

 とにもかくにも、分からないなら聞けばいいだろう。

 そう思った。しかし――。



「……いや、やめておこう。アイツきっと、俺からの着信嫌いだし」



 そこでふと、以前に小萌に用があって連絡した際のことを思い出す。

 何やら取り込み中だったのか、ひどく声を荒らげて罵倒された。そして念を押すように、二度とかけてくるな、と言われたのだ。

 それはさすがに無理だろうが、とは思いつつも、自ら火中の栗を拾う必要はないのも事実。なので、俺は次に海晴へ連絡しようとして――。



「あー……アイツも、小萌の話題出すと不機嫌になるか」



 先日の何の気なしの会話を思い出す。

 俺は学校の課題のことで、海晴にいくつか質問をした。しかし勉学については彼女よりも、小萌の方が優秀ではある。なので、小萌の名前が出たのだが……。



「烈火のごとく、怒られたな。……何故だ」



 おそらく、大切な親友に俺という害虫が付くことを嫌ったのだろう。

 しかしながら理由はまだ、判然としていなかった。だったら、こちらについても下手に刺激しない方が良いだろう。

 そう考えた結果、俺はまた冷蔵スペースを眺めて唸った。


「まぁ、炭酸ジュースで良いだろ。……あと、海晴の分も買おう」


 下手に一人だけハブると、それはそれで軋轢を生むに違いない。

 俺はそんな細心の注意を払いつつ、ようやくコンビニを出た。






「……遅い!」

「ぐは!?」



 ――で、部屋に戻ったら右ストレートがどてっぱらに。

 あからさまに苛立った様子の小萌が、開口一番にそう言いながら打撃を加えてきたのだ。俺は思わず身体をくの字に曲げながら、衝撃を堪える。

 そしてすぐに、


「お前なぁ!? 誰のために片道十分のコンビニに行ったと思ってんだ!?」

「それにしても遅い。なんなの、知久はナメクジか何か?」

「お、おのれぇ……!」


 言い返すが、鼻で笑われながら罵倒される。

 コイツ――女の子でなければ、マジで殴り合いの喧嘩だぞ。


「それで、ジュースは?」

「……あぁ、これだよ」


 俺は額に青筋を立てながらも、ぐっと堪えて。

 手にした袋から炭酸飲料を差し出した。

 すると彼女は、ムッとして――。



「私、炭酸飲めないんだけど」

「…………はぁ?」



 こちらに突き返しながら、そう言うのだ。

 なんだ、この女ァ……!?


「じゃあ、どうするんだよ」

「仕方ないから、知久が飲めば? 私は水で我慢するから」

「………………」



 なんだその『私は殊勝な態度を取っています』みたいな言い方は。

 思わずそうツッコみかけたが、俺は呑み込んだ。

 そして、もう一人の幼馴染みに声をかける。



「おい、海晴。炭酸ジュースだけど、いるか?」

「ん! 飲む飲む、あんがと!」



 すると海晴は素直に、ニカっと笑いながらペットボトルを受け取った。

 そして、勢いよく蓋を開けて――ブシュウウウウウウウウウウ!!



「おわ!?」

「きゃああ!?」



 先ほどの小萌との争いで若干だが振れていたのか。

 炭酸飲料は一気に噴き出して、海晴の制服をぐしゃぐしゃに濡らした。夏服の白いそれは水で張り付いて、肌が透け――。




「うぎゃああああああああああ!?」




 ――このバカ女、ブラすら付けてねぇのかよ!?

 俺は肌色を視認した瞬間に身体を回転させ、ベッドにダイブ。毛布を頭からかぶって、視界を完全にシャットアウトした。

 すると、聞こえてきたのはこんな会話。



「あちゃー、どうしよう。……これ」

「海晴、はい」

「お、小萌あざっす」



 そして、何やら衣擦れする生々しい音が聞こえた。

 それすらなくなってしばらく、俺は恐る恐る毛布から顔を出す。


 すると、そこには――。



「ぶふっ!?」



 俺のワイシャツだけをまとった海晴の姿があった!


 小柄故に、俺のそれだけで全身が隠れている。

 だが、これは刺激が強す……ぎ――。



「……がくっ」



 そこで、俺の意識は途切れた。



 

――

初心すぎる主人公である。



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