履かない天使と自愛の聖女。~どうして俺の周りには、マトモな女の子がいないのか~

あざね

オープニング

プロローグ 我が校の二大美女。






「きゃー! 天使様よ、聖女様もいるわ!!」

「やっぱり二人並ぶと、華やかだよな!!」



 男女問わず、廊下を歩く二人の女子生徒に他の学生たちが興奮している。

 何を隠そうその二人こそ、我が清廉高校が誇る二大美女だった。ある者曰く、前者は『儚い天使様』で、後者は『慈愛の聖女様』という。


 天使様こと高坂海晴は、色素の薄い髪色をした儚げな印象のある女の子。幼い顔立ちをしており、一見して中学生のようにも思えるため、皆の庇護欲を駆り立てる。必ずしも色気があるわけではないが、とてもバランスの良い発育をしている。

 他方、聖女様こと綾辻小萌は長い艶やかな黒髪の大人な美女である。どこかおっとりとした顔立ち、目元のホクロが印象的で、とかく優しげな雰囲気があった。海晴とは対照的に包容力のある身体つきをしており、醸し出される聖母感に骨抜きにされる男子は多い。


「……ホントに、大人気だな」



 そんな二人のことを眺めながら、俺こと芥知久はそう呟いた。

 教室の片隅、廊下からは一番遠く離れた席から。これは決して斜に構えているわけではなく、あの二人に熱狂できない悲しい事情があるためだった。

 たしかに、高坂海晴と綾辻小萌は絶世の美少女。

 我が校の二大美女と称されるのも頷けるし、認めざるを得なかった。



「本当に、常にアレなら良いんだけどさ」



 ただ、俺は知っている。

 二人の悲しい現実と、残念な事実を。

 そして、その被害を一身に受け続けているのは他ならぬ俺であった。







「ただいまー……」

「あー、おかえりー……知久、ポテチいただいてるよ」

「……海晴、また勝手に上がり込んでるのかよ」


 放課後、委員会の仕事を終えてから帰宅すると。

 そこには天使様こと、海晴の姿があった。制服が皺だらけになるのも気にせず、カーペットの上にうつ伏せになった彼女は、俺の菓子を勝手に食っている。


 こいつは、いつもそうだ。

 学校では愛らしさを存分に活かしているのに、オフになると一転、自堕落になってしまう。堕天使という言葉は、あるいはコイツのためのものではないか。

 そう考えつつ、自分のベッドに腰かけた時だった。


「……ん? って――」


 枕元に投げ捨てられた桃色の布切れに気付いたのは。



「おいコラ、海晴!? テメェはまた、他人の部屋で――」



 俺は顔が赤くなるのを隠さず、感情そのままに叫んだ。



「パ……パンツ、脱いでんじゃねぇよ!?」



 それは、そう。

 あの『儚い天使様』である美少女、海晴の脱ぎたての下着だった。俺が悲鳴に近い訴えを上げると、彼女はチラリとこちらを一瞥して答える。



「えー……だって、窮屈なんだもん。良いじゃん、別に」

「良くねぇよ!? 減るだろ、お前の尊厳が!!」



 ――あと、俺の理性とか!

 などと指摘するものの、完全に暖簾に腕押し。

 海晴は近くにあった漫画を取り出すと、ケラケラ笑いながら仰向けになった。すると自然、彼女のスカートがめくれてしまって……。



「ぐふ……!?」



 俺は全力で視線を逸らした。

 彼女は後になって気付いたらしく、何やら手で直していたが。しかし、あまりに無防備な海晴の姿に、俺は改めて抗議しようとした。


 その時である。



「あぁ、知久。……ちょうど良かったわ」



 もう一人の美女、綾辻小萌が部屋に入ってきたのは。

 どうやら、お手洗いにでも行っていたのだろう。彼女はハンカチで手を拭いながら、さも当たり前のようにベッドに腰かけた。

 そして――。



「お前も、当たり前みたいに――」

「喉が渇いた。ちょっとコンビニで、ジュース買ってきて」

「………………」



 さらに当然のように、そう言い放つ。

 有無を言わさぬ雰囲気に圧倒され、俺は思わず口ごもるが――。



「な、なんでだよ! そもそも、欲しいなら自分で……」

「知久のくせに、私に文句があるの?」

「……ぐぅ!」



 ――何なんだよ、コイツのこの迫力は!?

 俺は完全に気圧されて、ひとまず戦略的撤退をするためコンビニへ。



「あ、ジュース代だけど――」



 行く前に、小萌に訊ねた。

 すると彼女は、表情一つ変えずに答えるのだ。



「そんなの、貴方の奢りでしょう?」

「………………」





 そうして、俺はうつむき加減に外へ出るのだった……。

 



――

ホントにラブコメになるのか?


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