第3話 汗水流して働くことを知る人間
私が大学1年生の時、I先輩の元で「汗も出なくなるほどきつい」アルバイトをさせて戴いたのは「夏になれば思い出す Part2 私が私になった日」の通りですが、では一体、先輩はどんな仕事をされていたかといえば、もっと過激(危険)な(ゲーム用コインを成型する)プレス機(金型を押して、板金に穴または模様を打ち出したり、型通りに成型したりする機械)の操作でした。
1メートルの高さにプレス機があり、幅5センチ厚さ0.5センチ、長さ5メートルの金色のベルトが円状に巻かれたコイルを取り付ける。一個・一個プレスされたコインは真下の籠に落ちてくる。籠が一杯になったら搬送し、コイルがなくなったら交換する。 現在はすべて自動で行うのでしょうが、50年前は、端が欠けたりしないようにオペレーターがプレス(型抜き)する機械を常時コントロールしていました。
地上1メートルという、より高温の薄暗い場所で、ガッチャン・ガッチャンというプレスの大音量の中、耳栓をしコイン一個一個を丹念に処理していく。ちょっと気を抜けばコインではなく自分の指が飛ぶという極めて危険な仕事です。並外れた根気と持久力が無ければできない。両班貴族「赤ん坊の手」では、とてもできない辛い作業です。
先輩はこの仕事を大学卒業後から7年間(朝8時半~21時半・月曜~土曜・盆暮れ無し)やり続け、4,000万円貯めて都内に家を建てられました(引っ越しの時には、大学日本拳法部員全員がお手伝いに参りました)。
その時の20名で、先輩がどんな辛い仕事をしてこの家を建てたのか知る者は私一人でした。そして、もちろん今でも知らない。
しかし、それでいいのです。「知ることのない者には、無理に知らせることはない。知らないままでいい」のです。それが運命というものなのですから。
また、50歳を過ぎた人間が、頭で・情報として知っても意味が無い。
いま、これを読む若い方たちは、知識や情報としてではなく、自分自身の経験として、この話を理解し吸収することができる。私の先輩と同じことをやるということではなく、そういう世界というものを知っていれば、自分自身で体験する可能性がある。「運命に流される」のではなく、自らが運命の流れに主体的に関わるチャンスは、心の柔らかい10代・20代であれば、必ずどこかで見つけることができるのですから。
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