第18話 駄菓子屋

Tさんの通学路には駄菓子屋が一軒あった。

「あった」というのはもちろん間違いではなくて、今は廃屋になっているからだ。

何年か前に駄菓子屋をひとりで切り盛りしていたおばあさんが孤独死をした。

それから誰がやったのか、駄菓子はなくなり、家財道具も片付けられて、空き家になった。

ある日、Tさんがその廃駄菓子屋の前を通ると、店の中、開け放たれた引き戸の縁に老婆がひとり。

正座をして、こちらを見ているその目と自分の視線が合った。

驚いて逃げてしまったのだが、たしかに老婆で、白目のない真っ黒な目は三日月を寝かしたように笑っていたのを目撃したのだ。

それから、噂になった。廃屋の店の前を通ると老婆が笑ってこちらを見ている、のだと。

だが、駄菓子屋をよく知る者たちは口々にいう。

あの老婆は駄菓子屋のおばあちゃんではない、別人なのだと。

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