第16話 路地裏の猫

Pさんの自宅は商店街を抜けたあたりにある。

仕事で遅くなると、彼は必ずコンビニでクッキーを買って帰るのだ。

それは路地奥にいる黒猫にあげるためで、自分で食べるためではないのだという。

ある晩、商店街の一番細い路地――実際には家と家の間の空間――に猫の鳴く声を聞いた。

何気なく見てみると、暗闇に光る両目が見えた。

そのとき、たまたま持っていたクッキーを奥へ向かって投げたところ、カリカリと音がしてニャアと一声。

地域猫だろうと思ってそのまま気分良く帰ったのが始まりだ。

そんなある日のこと、彼は徹夜の仕事をし終え、早朝に商店街を歩いていた。

ふと、いつものあの路地を見ると、そこはドン詰まりになっていて、そこには自分の投げたクッキーが公園の砂場に作った小山のように堆積していた。

「たしかに食べている音も聞いたし、黒猫も居たはずなんですがね……あれって何だったんでしょう?」

商店街の店の人に聞いたところ、地域猫などいないということだったそうだ。

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