第11話 蝉時雨

Kさんが神社を訪れたのは、蝉時雨まっさかりの真夏であった。

夏祭り前の打ち合わせで、宮司に会いにきたのだ。

ついでに。

本殿に赴き、参拝をする。

賽銭を投げた瞬間、蝉時雨がピタリと止んだ。

カラン……カラカラカラ……。

硬貨が底に落ちる。

と、再び蝉たちが一斉に鳴き始めた。

その後、宮司に会って打ち合わせをし、帰り間際に宮司に賽銭と蝉のことを話すと宮司は不思議そうな顔をした。

気にはなったが、次の用事の約束があるので、その場を去った。

鳥居を潜り境内の外に出た瞬間、やはり蝉時雨がピタリと止まる。

不思議に思い、もう一度境内に戻るが、蝉の声はしない。

それから何度、鳥居を潜ろうと、本殿に戻ろうと、二度と蝉の声はしなかった。

自宅に戻ったKさんは、妻にその話をすると、「自分も夕飯の買い出しに昼間、出かけていたが、今日は暑すぎるので蝉の鳴き声など一切きかなかった」といわれた。

考えてみると、最初、境内に入った瞬間から蝉時雨が聞こえ始めた記憶がある。

あれは一体何だったのか。ちょっと不気味で、あの神社には近寄りたくない、とKさんは怯えていた。

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