第40話
店を出て歩いていると、大きな広場をみつけた。広場ではアメリカの少年たちがサッカーに興じている。両サイドにはサッカーゴールも備え付けられていた。上地らはしばらくフェンス越しにぼぅっとみていた。
(サッカーか、、、)
上地は少しだけボールに触れたいと思う。
少年たちの蹴ったボールが大きくそれて、上地たちの方に転がってきた。金髪で短髪の男の子が駆け寄ってくる。上地らのフェンス越しの足元にあるボールを手に取り、話しかけてきた。思わず走り出す上地。広場の入口目掛けて走り出した。
「おい!上地!どうしたんだ!」
「一緒にやらないかだって!」
振り返り、大声で叫ぶ。
「おまえ、英語わかんのかよ!」
「わかんねぇ!でもわかる!」
「なんだよそれ。」
皆も上地と同じように入口に向かって走り出した。
「ジャパン?」
「イエスイエス、ジャパン」
アメリカの少年たちは、近くで見ると中学生くらいだった。アメリカの少年たちも六人、上地らも六人だ。サッカーは苦手だという村上がゴールキーパーになった。
「君タチカラ、ヤッテイイヨ。」
と、ボールを渡される。大谷が受け取り、真ん中に置いた。ボールを蹴ったらスタートだ。まず上地が受け取り、左サイドにいる吉田にパスをした。慣れない様子でボールを受け取り、走り出す。アメリカとの体格差は、年齢もあるだろうが、上地らの方が上だ。少し上がって大谷にパスを出す。右サイドから上地が上がっている。
「こっち、パス!」
上地が声を出す。ボールを奪いに来るアメリカ少年をうまいことかわし、上地にパスを出した。上地はトラップと同時に、右サイドから一気に駆け上がる。
「走って!」
アメリカ少年が上地の前に立ちふさがる。が、スタンスが広い。股の間にボールを転がし、抜き去った。ゴール前、大谷がいる。少し浮いたパスボールを出した。
(よし!ドンピシャ。そのままダイレクトシュート)
と思ったが、大谷は右足でボールを抑え、トラップをした。その間、デフィンダーが近づいてくる時間を与えてします。焦った大谷は右足を大きく振りぬいた。が、ボールには当たらず、右足は空を蹴る。勢い余った力が大谷の体を大きくのけぞらせた。後ろ向きに豪快に倒れ込む。どさっ。あまりにも豪快にこけたものだから、それを見て上地は思わず笑ってしまった。吉田も笑っている。そばにいたアメリカ少年が膝をつき大谷を心配して、何かを言っている。他のアメリカ少年も近寄って来て、
「大丈夫カ?」
と聞いている。上地たちも、笑っている場合じゃないと思い、駆け寄った。
「オーケーオーケー。」
大谷は立ち上がり、笑顔でそう答えていた。
「頭ヲ打ッタミタイダケド、大丈夫カ?」
そうジェスチャーを交え、アメリカの少年達は、本気で心配している顔で聞いていた。笑ってしまった手前、申し訳なさそうに上地も
「大丈夫か?」
と聞いた。
「大丈夫、大丈夫。」
ゲームが再開される。大谷が豪快にこけてくれたおかげで、なんだか皆の距離が縮まり、緊張が解けた。それから一時間ほど、太陽が西へ傾き、空がオレンジ色に染まるまで皆で遊んだ。
「面白かった。センキュウ。」
上地は言う。
「明日モヤロウヨ。」
アメリカの少年が額の汗をTシャツで拭いながら言ってきた。
「俺タチ、明日日本ニ帰ルンダ。」
「ソウカ、、、残念ダ。」
心から寂しそうな顔をする少年達。
「テイクアピクチャー!」
村上が目を輝かせながら叫んだ。
「いいね。撮ろう撮ろう。」
サッカーゴールの前に皆で集まる。上地が自分のスマホを取り出し、何枚か撮った。
「俺ノスマホデモ撮ッテ。」
アメリカ少年が一人、スマホを差し出してきた。そのスマホでも何枚か撮る。
「ジャア、次ハ俺ガ撮ルカラ君入レヨ。」
少年と変わり、上地も集合写真に納まる。それから全員と握手を交わし、肩を叩きあい別れた。広場の出口で、もう一度振り向き皆で大きく手を振った。
「めっちゃ面白かった~。」
「ほんと、なんか映画みたいじゃない。俺、こういうのちょっとあこがれてたんだよね。外国で地元の人とサッカーとかバスケとかするやつ。」
「わかる、わかる。」
「初めちょっと緊張してけど、大谷がこけてくれたのが良かったわ。」
「だろ?あれは俺の作戦だよ。みんなの緊張をほぐしてやろうと思ってだな、、、」
「嘘つけ。でも確かにあれで緊張が解けた。」
「てか、上地ってサッカーうまいよな。」
「そうそう、それ俺も思った。」
皆が口を揃えてそう言った。
「えっ、まじで。ありがと。」
上地は、そう言って平気な顔をして返したが、実はサッカーをやっていたと素直に言えず、なんだか半紙に滴り落ちた墨汁のような染みが胸の内に一粒落ちたような、なんだか少しだけ暗い気持ちになった。
でも楽しかった。最後に最高の思い出が出来た。皆も同じ気持ちだった。
上地は、(もしここアメリカで暮らすことが出来たら、楽しいだろうし、そんな自分は、きっとカッコイイだろうな)と密かに思い、同時に(そんなの夢物語だ)、とも思った。
アメリカで見る最後の夕日が、上地らの顔を照らし、興奮した表情をさらに赤く染めていた。
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