第39話

あっという間に研修の最終日となった。すべての授業が終わった後、グラハム先生からの話しがあった。通訳者が隣に立ち、日本語に訳してくれる。

「皆さん、二週間というあっという間の短い期間ではありますが、お疲れさまでした。今回皆さんには戦争というテーマで演目をやって頂いたのですがどうだったでしょうか?日本は平和な国ですよね。それはとても素晴らしいことです。ですが残念なことに我が国アメリカは皆さん承知の通り先進国でありながら銃社会です。皆さんは銃社会についてどうお考えですか?私は反対です。銃によって数えきれないほどの犠牲者が生まれています。とても悲しい事件も沢山あります。学校などでも銃乱射事件によってたくさんの若い命が奪われています。犠牲になったその家族は、深い悲しみを背負って一生を生きていかなければなりません。それでも銃は無くならないのです。アメリカでは銃のCMも流れています。若い女性が銃を手に持ち[私は自分の身は、自分で守るわ。あなたはどうする?]と笑顔で視聴者に投げかけます。皆で銃を持たない覚悟を持てばいいのに、そこには利権なども重なって、なかなか銃は無くなりません。一時期エンターテイメントは社会に取って、果たして必要なのかという議論が巻き起こりました。それはとても悲しいことです。エンターテイメントがない社会なんて何が楽しいのでしょう。私は、エンターテイメントは社会にとって必須のものだと信じています。そのためにもエンターテイメントを使って社会に何かを訴えていかなければならないと思っています。エンターテイメントは人々に何かを伝えるのにとても便利な使いやすい、また受け入れやすいものなのではないでしょうか。皆さんに今回戦争というテーマで研修を行ったのも、エンターテイメントの力を感じて欲しかったためです。あなた方はまだ若い。これから社会というものを担っていく人たちです。多くを見て、多くを聞き、多くを経験していってください。そしてそれを今の時代、次の世代へとエンターテイメントという武器を使って、銃などの人を傷つける武器ではなく、心に呼びかけるエンターテイメントという武器を使って、訴えていってください。皆さんと一緒に授業が出来てとても楽しかったです。この二週間で皆さんは驚くほど成長しました。それは私が保証します。どうぞこれから日本へ帰ってもここでの研修は忘れずにいてください。そして日本でもエンターテイメントの花を咲かせてください。私からは以上になります。ありがとうございました。」

皆で拍手をし、これでニューヨークでの研修は終了した。



上地はいつもの六人でハンバーガーショップに居た。

「あ~、終わったな~。明日帰るのか。」

「早かったな。」

村上が急に立ち上がった。

「おお、びっくりした。なんだよ急に。」

「おれ、あの子と写真が撮りたい。

「えっ?あの子?」

「あのカウンターの子だよ。」

カウンターから見えないように、指を指す。

「ああ、言えば。一緒に写真撮ってくださいって。」

「いやいや、簡単に言うなよ。」

「簡単だろ。」

「英語でなんて言うんだよ。」

「テイク ア ピクチャだろ。」

「トゥギャザーも入れろよ。」

「テイクアピクチャ、ツ、ツゥギャザー。」

「おし、行ってこい。」

「おし!行ってくる。」

村上は堅い動きでカウンターに向かっていく。

「あいつ、意外とあの子のこと気に入ってたんだな。」

「まぁ、可愛いもんな。あの可愛さは日本人には無いよ。」

「確かに。おれ外国人ってあんまり可愛いって思ったことないんだよな。可愛いっていうより綺麗って感じで。でもあの子は可愛いが当てはまるよ。」

「確かに。」

村上がカウンターで、身振り手振りで一緒に写真を撮って欲しいと伝えてる。笑顔で答える女の子。どうやらうまくいったようだ。村上はカウンターに腰掛け、二人顔を寄せ合いスマホのカメラに笑顔を向けていた。ありがとうと礼を言い、カウンターから離れ際に、一枚いい?とジェスチャーで聞いている。そして彼女のワンショットをスマホに収めていた。テーブルに帰ってきた村上は、

「はぁ~、緊張した~。」

と大きく息を吐いた。

「見せろ見せろ。」

皆で村上のスマホを除き込む。

「おお!いいじゃん。やったなお前!。」

大谷が村上の肩を思いっきり叩いた。

「痛ぇな、強すぎだろ。」

そう言ってにやけながら肩をさする。

「いい思い出出来たな。」

「はぁ~、可愛い。待ち受けにしよっかな。」

「げっ、気持ち悪ぃ。」

「あんだよ。」

最後に全員でカウンターの女の子に手を振って店を出た。

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