第36話

バスがようやくニューバーグのホテルに到着した。この日は夕食まで自由行動となっている。ホテルは二人一組で使用することとなっていて、上地は村上と一緒の部屋になった。

一時間ほどゆっくりとしてから、少し町を散歩することになった。仲間を誘い、時差ボケでぼぅとしている頭のまま外に出た。ニューバーグの街並みは彼らにとって、とても新鮮だった。茶色いレンガの家々、広い道路に広い川。大谷がスマホで調べ、それがハドソン川だと知ると全員が感嘆の声を出した。

「これがあのハドソン川!ひろっ!そりゃ奇跡起きるわ。」

有名なハドソン川の奇跡のことだ。皆、納得顔で雄大に流れる川を見つめている。川の音や目に映る草木の種類、すべて日本とは違っている。同じ地球なのに、こんなにも自然や空気が違うことに驚き、そしてそれを肌で感じられることに幸せを感じていた。

 少し歩くと、日本でも有名なチェーンのハンバーガーショップが見えた。全員興奮し駆け寄る。本場のハンバーガーショップ、

「食うしかないっしょ。」

そう言って村上が先陣を切って乗り込んだ。乗り込んだはいいが、店員の英語に固まってしまう。

「うっ、、、ハン、、ハンバーガー、プリーズ。」

サンバイザーを被った店員の女性は笑顔で何かを言いながら、カウンターに置かれたメニューを指し示した。

「あっ、そうね。セットね。てりやきバーガーセットが良いんだけど、、、どれだ?」

皆が脇からメニューを覗き込む

「照り焼きって、英語でなんて言うんだろ?」

「照り、、、照らす、、、シャインとかかな?」

「シャインセット?ないぞ、、、アメリカにはないのかな。」

「おれ、ハッピーセットがいい。」

大谷がいう。

「ハッピーセットもないぞ。」

「じゃあ、まぁ、チーズバーガーでいいや。すいません、あっ、いや、、え~と、チーズバーガーセット、プリーズ。」

村上が注文した。

「Drink?」

「あっ、、コーラ、コーラ。」

「M?L?」

慌てた村上は、左手を真上に、右手を右にまっすぐ伸ばして

「L!」

と叫んだ。笑顔を見せる定員。それを見ていた他の男どもも、村上と同じように、

「L!」

と言ってサイズ注文した。最後に注文した上地は、

「M!」

と言って両手をまげ、肩をすくめM字のような形を作って定員を笑わせた。日本で同じことをすると、他人から白い目で見られることはわかっているからやらないが、アメリカという土地の雰囲気が、またここは外国なんだからという気持ちが、皆の心を少し大胆にさせている。

注文の品を受け取り、席に着くと、

「めっちゃ、かわいいあの定員さん。」

誰からともなく言い出した。

「エマワトソンに似てる。」

村上が嬉しそうだ。

「似てないし。言い過ぎだろそれは。」

「え~、そうかなぁ。似てると思うけどなぁ。」

「そんなことより、早く食べようぜ。本場のハンバーガー。」

「おお、食べよう食べよう。」

「う・・・うまい。本場のやつ、めっちゃうまい。」

「いやいや、本場って言ったってチェーン店だろ。どれもいっ・・・ほんまや!」

「ちょっ待って、コーラも・・・うまい!」

笑い声が絶えない。村上の視線が一瞬カウンターの方へと移る。上地がそれに気づき、振り返ると先程の女性店員もこちらを見て笑っていた。

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