第25話

ボリウッドランドに着いてからも、黙ってアトラクションの列に並んだ。中央に建つタージマハル。その周りに様々なアトラクション施設や、ステージ、レストラン等が並んでいる上地は初めての所なので、何が何だかわからない。ただ従兄の後ろについて並んだ。周りにはインドの音楽がずっと流れている。ものすごい行列だ。家族で来ている人、カップルで来ている人、友達同士で来ている人。みんな笑顔で楽しそうだ。上地と従兄だけが黙って並んでいる。立て看板を見ると【待ち時間60分】の文字。上地はげんなりした。

(うそだろ?こんなにも待つのか?)

唯一救いは、空が曇っていることだった。この季節カンカン照りでただ立たされていると考えるとサッカーの練習の比じゃないくらい疲れたことだろう。

ふと、従兄の背中を見ると、何かを読んでいる様子だ。横から覗き込むと週刊少年ジャンゴを読んでいる。読みたい。そう思った。ジャンゴは読んでないが、彼が毎週欠かさず観ているアニメも連載中だ。読み終わったら貸してくれるかな?と期待した。

アトラクションは面白かった。ただ、この興奮を誰にどう伝えていいかわからず、困惑した。従兄も何も言わず何も聞かない。ただ次のアトラクションに並んだ。上地もただついて並ぶ。

従兄がジャンプを閉じた。振り向いて「読むか?」と言ってくれるのを待ったけど、背負っていたリュックサックを手前に持ってきて、仕舞った。上地も「貸してください。」の一言が言えず、ただがっかりした。読みたければ一言いえばいいのに、そのたった一言の何でもない勇気が出せなかった。ジャンゴが読めると期待を込めていた時間は終わり、それからただ時間が過ぎ去るのを待つしかない時間がきた。

 三つほどアトラクションを乗り終えたあと、

「飯食おっか。」

振り向いて、従兄が言った。

「ハンバーガーとかでいい?カレー屋の方はすごい行列だからな。」

と聞いてくる。何でもいいですと答えて、昼食をとることにした。

まただいぶ並んでからようやくハンバーガーセットを受け取ることが出来た。向かい合ってテーブル席に座る。

(はぁ~、疲れた~)

と一息ついた瞬間、

「学校行ってないの?」

と聞かれた。ドキッとした。上地の一番触られたくないところに急に手が伸びてきた。自分の顔が赤くなるのがわかる。

「今は行ってます。」

少し息苦しさを覚え、即座に答えた。

「なんで?面白くないの?」

「だから、今は行ってますって。」

「ふ~ん、まぁいいけど。友達関係とか?」

「・・・」

「まぁ、なんにせよ、悩むことは良いことだよ。俺なんて何ていうか、悩みのないのが

悩みというか、、、大学も行かせてもらってるけどさ、特に何をやりたいってのが無いんだよね。中学、高校もただ何となく過ごして、楽しけりゃいいと思っててさ、大学も一応家から出たけどさ、結局近くの大学に入って、やっぱりどこかで楽を選んで、このままで良いのかなぁって・・・・てか、良くないんだけど。」

急に従兄がしゃべり出したので、上地は驚いていた。この人は、僕のことに興味があって学校に行ってないことを聞いたんじゃなくて、自分のことを少し聞いてもらいたかっただけじゃないのかと思ったら、先程の高まった緊張が解けてきて、気持ちが楽になった。

「僕の悩みなんて別に大したことじゃないですよ。それに今、お兄さんは、このままで良いのかってしっかりと悩んでるじゃないですか?」

「あっ、そっか。これも悩みの一つか。」

そう言って二人で笑った。少し打ち解けた気がして、上地は嬉しかった。それから上地は大学のことなどを聞いた。でもスキーサークルとその中で起こる男女のごたごた話ばかりで、大学のことは何もわからなかった。

二人がハンバーガーを食べ終わったあと、

「ほかに何か乗りたいものある?」

と従兄が聞いてきた。

「いえ、僕はちょっと何もわからないです。」

「そうか、、、『ガンジーワールド』乗る?」

と聞いてきたので、上地は

「はい。」

と答えると、

「まじで?」

と変な顔をしてきた。

笑顔で歌い、手を取り合う子供の人形の間を、ボートでゆっくりと回るアトラクションだった。乗り終わったあと、確かにこれは男二人で乗るものじゃないなと思った。

「じゃあ、お土産買って帰ろっか。」

従兄は入り口付近の店に入って行った。籠を取り、たくさんのクッキーを入れていく。

「そんなに買うんですか?」

「ん?おう、えっ何?買わないの?」

「はい、、特に欲しいものはないんで。」

「みんな喜ぶよ、ここのクッキーは?」

「そんなにおいしいんですか?」

「普通。」

「えっ。」

「普通だよ。味なんて全部一緒で、全部普通。」

「じゃあなんで?」

「ん~、魔法かな?」

「魔法?」

「そ、魔法。ここのクッキーには魔法がかかってるんだ。だからみんな喜ぶ。」

「・・・そんなもんなんですか。」

「そんなもんだよ。」

そう言って従兄は、籠一杯にクッキーの箱を入れていった。

上地はひと箱手に取り裏を見て値段を確かめた。彼には理解できない金額がついていた。小さなよくわからないキャラクターのキーホルダーも手に取ってみたが、やはりいらないと元に戻した。

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