第24話

ようやく親戚の家に到着した。冷えた麦茶をもらい、居間でしばらくのんびりとさせてもらった。夕方になり、叔父が仕事から帰って来た。

「おお、来たか。疲れただろう?若いからそうでもないか。」

「こんにちは。はい、大丈夫です。二、三日よろしくお願いします。」

「そうか、そうか。よく来た、よく来た。ゆっくりしていったらいい。ごめん、先に風呂入らしてもらうから。外は暑くてかなわん。東京の暑さは向こうとは違うだろ。」

「う~ん、こっちも暑いけどまぁ、似たようなものだと思いますよ。暑いのは暑いです。」

「ははは、そうか、そうだな。暑いのは暑いわな。じゃあ、ちょっと失礼するよ。」

叔父の背中を見る。汗で背中にへばりついたYシャツが、より一層外の暑さと仕事の大変さを表している。風呂から上がると、叔父はさっそく冷蔵庫からビールを取り出し、うまそうに飲みだした。

「飲むか?」

とからかってくる叔父を、

「ちょっとやめてよ、お父さん。」

と叔母がたしなめる。

「うちの子達も二人とも、もう家を出たから、のんびりして行くといいよ。」

そういえば、と上地は思った。従姉妹のお姉さんとお兄さんがいたはずだ。

「一人暮らしを始めたってことですか?」

「娘の方は、今、会社勤めで一人暮らしだけど、息子の方は今、大学二年で寮に入っている。二人とも東京にいるんだから、ここから通えばいいって言ったんだけど、どうしても家を出たいってさ。寂しいもんだよ。」

「はぁ、、、。」

「と言っても、息子の方は毎週のように週末になると飯食いに帰ってくるけどな、なぁ母さん。母さんの料理がうまいってさ。」

「そんなこともないけど、、、。もう少しでご飯出来るからもうちょっと待ってね。」

「うちの息子も早く彼女でも作って、手料理食べさせてもらえばいいのに。」

そう言って、叔父は叔母に笑いかける。複雑そうな無言の表情で、叔母はそれに答えていた。

夕飯に出されたハンバーグは、確かにうまかった。ハンバーグを出されたときは、少し子ども扱いされているのかなと上地は思ったが、このハンバーグは確かにうまかった。毎週のように大学の寮から帰ってくるのは頷ける。

「東京で何処か行きたいところとかある?」

ご飯を食べながら、叔母が聞いてきた。

「いえ、特には、、。何も考えずに来たので、、、。」

「そう。じゃあボリウッドランド行けば。息子に頼んでみるから。せっかく来たんだし、楽しまなくちゃ。ね。」

ボリウッドランドとは、一昨年神奈川県に出来たインド映画をモチーフにした歌とダンスとアトラクションの融合施設、東京ボリウッドランドのことだ。

「私たちも去年行ったんだけど、もうすごい人でね。ね、お父さん。でも、歌とダンスが素晴らしくて、とっても良かったのよ。」

「はい。じゃあ行ってみようかな。」

上地もニュースやバラエティー番組で見たことはある。インド映画というものに親しみは無かったが、少し興味はあったのでそう答えた。

  上地が風呂から上がると、たった今電話を切ったところらしい叔母が、

「明日、大丈夫だって。朝九時ごろ帰ってくるから、準備しといてね。」

「はい、わかりました。ありがとうございます。」

あてがわれた客間にはすでに布団が敷かれていた。テレビを付けたが、ザッピングして特に見たい番組も無かったので、すぐに消して、布団に入った。まだ、夜九時半を回ったばかりだったが、やはり旅の疲れはあったのだろう。彼はすぐに眠りの中に落ちていった。


翌日、上地が朝のニュース番組を見ていると、

「おいーす。」

といって、従兄のお兄さんが帰って来た。

「あ、こんにちは。じゃない、おはようございます。」

振り返りながら正座になり、挨拶した。

「おぼえてる?」

叔母がニコニコしながら上地に聞いてくる。

「覚えてるわけないでしょ。まだ小さかったし、あんまり絡んでないし。な。」

上地は、急に話しかけられ、ビクッとした。確かに覚えてなかったので、愛想笑いを浮かべながら首を斜めに傾けた。

「じゃあ、行こうか。」

そう言われ、急いで後に続いた。

「行ってらっしゃい。頼んだよ。」

二人になったとたん、従兄は急にしゃべらなくなった。上地も黙って後に付いて行く。電車に乗り、二人して黙ってつり革を掴んでいる。上地は、この人は何か機嫌が悪いのかなと、心配した。乗り換えの時に、

「少し歩くよ。」

と、一言だけ言いスタスタと歩き出す。上地はスイスイと人波を避けて歩いて行く従兄の背中を必死で追いかけた。何せ、この大都会で迷ったらひとたまりもない。背の高さが違うから、必然、歩幅も違う。上地は早歩きで従兄の後に続いた。

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