第8話
「はぁ、はぁ、、、もう終わりにしよう。」
「そうだな、、、あんまりやりすぎると明日にひびくからな。」
「はぁ、はぁ、ありがとう楽しかったよ。」
「こちらこそ、、、え~と、ごめん。名前何だっけ?」
「そういえば、自己紹介まだだったな。俺は久我。よろしく。」
「俺は島でこいつは上地。」
三人はグラウンドに座って話し始めた。
「久我君てさ、、小学校の時見なかったけど、転校してきたとか?君みたいに上手い奴が居たら絶対に目立つでしょ。」
「確かに、そうだな。プロ並みだよ。」
「へへっ、ありがとう。そうだよ。S県から転校してきたんだ。小学校卒業してすぐに、こっちに母さんの実家があって・・・そういったことでね。」
「そうなんだ。親父さんの転勤かなんか?」
「・・・ううん。父さん・・・死んじゃっていないんだよね・・・。」
「えっ!・・・ごめん、いらんこと聞いちゃったな。」
上地は、島の肩を軽く小突いた。
「いや、いいんだよ。もう一年以上前のことだし。ただ・・・母さんがすごく落ち込んじゃってさ、まぁ、落ち込むのは当たり前なんだけど・・・。母さんの落ち込み様見てたらさ、俺、父さんにちょっとムカついてんだよね。勝手に死んじまいやがってって。」
「・・・・。」
「・・・あっ、ああ、事故だよ。事故。仕事中のね。父さん山師だったんだ。危険な仕事だって聞いてたけど、まさか死んじまうなんて・・・。人が死ぬってほんの一瞬だよな。昨日まで普通に居たのに、今日いきなり居なくなるってことがホントにあるんだもんな。俺の母さんさ、ほんとに父さんのこと好きでさ、子供の前でも平気で父さんに抱き着いたりしてんの。ちょっとやばいよね。・・・それなのに居なくなちゃって・・・母さんは・・・見ていられないくらいに落ち込んで。母さんが可哀想過ぎだろって。」
「、、、でも、それって事故だから・・・。」
「うん・・・わかってるんだけどね。しょうがないじゃないかってことは。でも母さん一人ぼっちにして何やってんだよって、、、ムカついてるんだ。」
「・・・。」
「あぁ、なんかごめん。話、変な方向に行っちゃったな。ほんとごめん。こんな話、チームメイトにもしたことないのに。今日初めて会った人にしちゃうなんて、どうかしてるよな俺。さぁ、明日もあるし帰ろうぜ。」
「・・・うん。そうだな。じゃあまた明日。」
「おお、また明日。」
「あ、あの!」
立ち上がる久我に、上地は急いで声をかけた。
「久我君でさ、プロになりたいなんて考えたりするの?」
「ああ、俺はプロになるよ。父さんと約束してるんだ。じゃあな。」
久我はそう言って、グラウンドを飛び出していった。
「・・・人って色々あるんだな。」
久我の背中を見やりながら、島はぼそっと言葉を漏らした。
「そうだな・・・。」
ボールを持って、二人は歩きだす。
「でも、あいつ、久我君は何で俺たちにあんなことしゃべったのかな?」
「親父さんが死んじゃった話?う~ん、なんでかな?まぁ話しの流れってこともあるだろうし・・・。」
「そうなのかな?」
「じゃあ、ほんとは誰かにしゃべりたかったってことなのか?」
「いや、わかんないけど・・・。でも俺らって、久我君も言ってたけど、今日会ったばかりの他人なのにな。」
「・・・他人だから話せたのかな?」
「・・・そうかもな。」
「・・・うん。そういうもんかもな・・・。わかんないけど。」
二人は暗闇の中を歩きながら、自分達とは違う世界があること、自分たちの知らない感情が存在することを、その未発達な頭で理解しようとしていた。
「久我君、プロになるかな?」
白い息とともに、今日会ったばかりの久我に対しての期待と、願望のようなものが上地の口から出てきた。
「なるさ、あいつは。・・・だって『なりたい』じゃなくて、『なる』って言ったんだぜ。『なりたい』って思うことと『なる』って心に刻むことは全然違うよ。あいつはプロになる。絶対に。」
「・・・うん、そうだね。きっとそうだ。父さんと約束したって言ってたし。ほんとは親父さんのこと好きだと思うよ。」
「当たり前だろ、そんなこと。好きだからこそ、ムカついてんだよ。」
二人の頭上にある夜空には、数えきれないほどの星々が静かに瞬いていた。
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