第7話

ぽつりぽつりと五杯食べ終わったものから部屋に帰っていく。その後ろ姿はまるでいつか観たゾンビ映画を連想させた。上地もなんとか五杯食べることが出来、席を立った。彼が一番最後だった。こんなに食べたのは初めてだ。腹が苦しすぎる。パンパンではじけそうだ。部屋に戻ると板倉と島が愚痴をこぼしていた。

「まじ、意味わからんあいつら。」

「水口も一緒に笑ってたぜ。」

「ほんと苦しすぎるわ~。」

「俺なんてトイレで吐いたんだぜ。」

「まじで!?それせこくない?」

「僕は吐けなかったよ。あ~苦しい。どうやって吐くの?」

「指突っ込むんだよ。舌の奥の方に。そんで、おぇ~ってやれば吐けるよ。」

「そうなんだ。良く知ってるね、そんなこと。」

「先人の知恵だよ。」

「それなんか違うくね。」

部屋は三、四人で別れていた。二年と一緒の部屋でないだけでも有難かった。二年は二年でまとまって三人一部屋にいる。上地達一年は合宿中に唯一気が抜ける場所と時間がこの部屋にいる時だった。

「あ~、腹が苦しい。ちょっと歩いてこよっかな。」

と上地が言うと、

「あっ、俺も行く。板倉は?」

「ああ、俺パス。さっき吐いたから、実はちょっと気持ち悪いんだわ。ゆっくりしとくから、二人で行ってきなよ。」

「おお、お大事にな。そうだ、俺マイボール持ってきてるから、一応持っていこう。」

そう言うと島は自分のバックからサッカーボールを取り出した。

「じゃあな、お大事に。」

そう言って二人は部屋を後にした。

ジャージの上にダウンコートを着てきたが、さすがに夜になると外は寒かった。二人は軽くボールを蹴りあいながら、知らない場所で迷子になったらいけないから、とりあえずグラウンドを目指した。辺りは人気もなく点々と街灯が光を燈している。グラウンドに近づくと照明が点いており、誰かがボールを蹴っている音がする。

「ん、誰かいるのかな?」

二人はまるで怖いものでも見るかのように、そっと覗いた。

「あっ、あいつだ。Y校の野生児だ。」

Y校の十番がひとりでロングシュートの練習をしている。板倉が声をかけた。

「お~い。こんな時間に一人で練習ですかぁ?」

Y校の十番はボールを足で踏み止め、こっちを見た。手を挙げて答える。

「おお、そっちは・・・N校?良かったら一緒にやる?」

そう言って、ボールを蹴り出した。島がそれを受ける。

「練習熱心だね。」

島は蹴り返しながら言った。

「そんなんじゃねぇよ。なんか外が気持ちよくってさ。」

受け取りながら彼は答えた。

「どうする?じゃあさ、オフィンスとディフィンスとキーパーで、三人交代でやろうよ。」

「いいよ。じゃあれ俺はじめディフィンスやるわ。上地ははじめキーパーでいい?」

「う、うん。いいよ。」

そう答えながら彼は緊張していた。まさかY校の十番と、遊びとはいえプレイできるなんて思ってもみなかった。

Y校の十番が動き出す。島はどう出るだろうか?右から攻めてくるのか。右利きか?左利きか?島も体制を低くして抜かせまいとする。十番が素早く動き出した!それにくらい付いて行く。体を反転させ、元の位置に戻っていく。仕切り直しだ。今度は左から抜こうとする。ゆっくりと動き出しながら素早く島を右に振り、左から抜けてきた。

「くそっ。」

島が後ろから追いかける。キーパー上地と一対一。左足で蹴り出したボールは、ゴールポストの左下にあたり、ゴールした。

「よし!じゃあ次俺ディフェンスやるね。」

「俺がキーパーか。」

上地はボールを受け取り、オフィンスの位置に着いた。よし、なんとか一矢報いてやるぞ。再び上地のサッカー魂に火が点こうとしていた。

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