第39話 2周目の裏ボスと故郷への旅立ち
「いい景色だな」
のどかな田舎道をロバが荷役を務める商隊の荷車が進んでいく。
俺はそんな荷車の後部席に乗ってのんびりと周囲の風景を眺めて伸びをする。
「……それで、なんでお前たちがいるんだ?」
「ええやないか、デュース。せっかくの休暇なんやし、暇しとったからちょうどよかったわ」
「そうっスよ!! デュース先輩の故郷なんて、超気になるっス!!」
「わ、私も、気になりましゅっ!!」
「せやで。私はお姫様の護衛やから。お姫さんが言うならしゃあないわ」
「…………そうかい」
俺の乗っている荷車の同乗客は3人。なんとも偶然、全員知り合いだ。
目まぐるしいい4月を終えた
……ぶっちゃけ俺の故郷なんて何もない田舎なんだけどな。
「それにしてもデュース先輩、5月休暇は学園にいるって言ってたじゃないっスか。なんで急に里帰りする気になったんスか?」
「特に深い理由はないぞ。フォルネ街は4月だけでも2回も行ったし、学園で暇してるんだったら久々に様子を見に行こうと思っただけだよ」
「ふ~ん、そうなんスねえ」
そう言ってリオネは荷車からの景色を目を細めて眺める。
正直な話、今回の帰郷に理由がないという訳ではない。俺が幼い時に彷徨った賢者の森に行くこと、そしてこの世界の端を改めて確認することが今回の旅の目的だ。
とは言っても休暇は2週間程度。そこまで時間がある訳でもない。
「あ、なんかいい匂いがするっス!!」
「ほ、ホントだね。そろそろ次の街が近いんじゃないかな」
「ホントっスか、ユーリちゃん。何か美味しいものでもあるっスかね~」
まあ、たまには賑やかな旅路もいいかもしれない。
きゃいきゃいと盛り上がる後輩たちを尻目に俺は小さく微笑むのだった。
▼ △ ▲
丸3日間かけて商隊が俺の故郷アルラ村に到着する。
王国の北東の果て、辺境中の辺境にアルラ村は存在する。
「や~、ようやくついたっス!!」
「田舎で悪かったな」
「そんなことないっスよ。空気が美味しくていいとこっスね」
村に入った俺は3人を連れて孤児院に向かう。
辺境の村に宿屋などある訳もなく、今回は俺の親代わりでもあった委員長に頼んで孤児院に宿泊させてもらうことにした。懐かしい気分に浸りながら孤児院に近づくと子供たちの声が聞こえてくる。
「あっ、デュースだっ!!」
「デューだっ!!デューが来たぞ~!!」
「おう、久しぶりだな。お前達、元気か?」
俺達が孤児院の入口に着くと、庭で遊んでいた子供達が俺に気が付いて声を掛けてくる。相変わらず生意気そうな表情でわらわらと俺を囲んでは袖を引っ張ってくる。その時、孤児院から院長のハンナさんが出てくるのが見える。
「デュース、おかえりなさい。元気そうで良かったわ」
「ハンナさん、お久しぶりです。1週間よろしくお願いします」
「そんなに畏まらなくていいわよ。ここはあなたの家なんだから」
「ありがとうございます。それで……」
「ええ。貴女たちが今回のお客様ね。この孤児院の院長をしているハンナです。少し騒がしいかもしれないけど、楽しんでいってね」
「リオネです!! よろしくお願いします!!」
「ゆ、ユーリと申しましゅ!! お、お願いしますっ!!」
「サリーです。よろしくお願いします」
「リオネちゃん、ユーリちゃん、サリーちゃんね。いつもデュースがお世話になってます。すこし手狭ではあるけど、3人ともゆっくりしていってね」
そう言ってハンナさんはニコリと笑うと俺達を孤児院に案内してくれる。
ハンナさんは俺の母親の古くから友人で、母親を亡くした俺を引き取ってこの孤児院で面倒を見てくれた、まさに命の恩人だ。そして、俺の父親が誰なのかを知っている数少ない人間の1人でもある。
「デュー、何日いるの?」
「デュー、遊ぼうぜ」
「デュー、アカデミって楽しいか?」
「お前ら一斉に話しかけてくんな!! あとで話してやるから。てか、重いから袖ににぶら下がるなよ」
「ふふっ。デュース先輩、大人気っスね」
「せやな。いいお兄ちゃんって感じやな」
袖に捕まったり背中に登ってくる子供達の相手をしている俺を見てリオネ達が生暖かい視線を送ってくる。重い荷物に子供達をのっけて俺は懐かしの孤児院へと足を踏み入れるのだった。
―――――――――あとがき―――――――――
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人生2周目、この世界(ゲーム)の裏ボスの俺、なぜか主人公勇者ちゃんに懐かれてしまう~モブとして暗躍するつもりが、美少女勇者がくっついて離れてくれないので、いっそのこと目立ってみることにしました~ 梯子田カハシ @noblesseoblige1231
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