第38話 2周目の裏ボスと軽い腕試し


「デュースさまっ!?」


「いや、通りがかりに少し声が聞こえな。驚かせてすまない。それで………ルカよ」


「はいっ!!」


「いい機会だし、腕試しをしてみるか?」


「……へ?」



キョトンとした顔を浮かべたルカに思わず笑ってしまう。後ろのフランシスとジミーは逆に顔が強張ってしまっている。



「言ってただろう? 俺の実力が気になるって。ついでにフランシスとジミーもやるか? イリナも戦いたければ参加してもいいけど」



さっきまで和やかだった談話室が一気に凍り付く。

非常に気まずいが自分から出ていった以上は、もう後に引けない。俺が1人困っていると、パッとイリナと目が合う。



「いいと思います!! やりましょ!! そこのオジサン2人もいいよね、ね?」


「おお、イリナの方はノリ気か?」


「はい、せっかくなので。そのかわり……」


「そのかわり?」


「私が勝ったらデュースさまの血を吸ってみたいな~なんて」


「い、イリナっ!? 流石にそれは不敬ではっ」


「いいぞ」


「…………え?」


「いいぞ。せっかくだしご褒美があってもいいだろ。ルカも、フランシスとジミーも俺ができる範囲なら何でもやりたいこと言ってくれ」


「よ、良いのですか?」


「おっ、やる気になってきたな。それじゃ腕試しを始めようか。善は急げだ。ってことで」



俺は指をパチンと鳴らして特級魔法を発動し異空間に全員を呑み込む。真っ白で広々とした空間が現れ、俺達5人がそこに放り込まれる。



「デュースさま、こんな魔法も使えたんですね…」


「まあな。このくらいならダリアもできるだろう?さて、ここなら思う存分に暴れられるぞ。誰からやろうか?まとめて掛かってきてもいいぞ」


「それじゃ、僕からお願いします!!」


「ルカか。よし、いつでも来い」



堕天使のルカが前に進み出る。

せっかくの腕試しだ。幹部たちがどこまでやれるか、しっかり見させてもらおうじゃないか。



▲ ▽ ▲



「……マジか」



俺の前には突っ伏す4人の幹部達。


思っていた以上に事態は深刻かもしれない。弱い……訳ではない。でも、足りない。俺の記憶が正しければ、魔王軍の幹部達はもう少し強かった印象だ。



「まだまだっ!!」


「遅い」


「ぐっふぅ!!」



機を伺っていたであろうジミーが地面を蹴って俺に迫るが、振るわれた剣は空を斬る。代わりに炎を纏った俺の拳がフランシスの腹部に炸裂し、ジミーはそのまま遠くへ吹き飛ばされた。



「……おかしいな」



おかしい。明らかに弱くなっている。


1周目に俺が地下魔王城に入ったのは5年後だが、それにしたって違和感がある。もちろん山脈龍モンクや厄災龍アルバラードよりは強いし、勇者となったリオネともそこそこ戦えるとは思うが、俺の想定には届いていない。



「これは……鍛え直さないとな」


「ひぃいい〜、デュースさま強い〜」


「まさかイリナとジミーが最後までたっているとは思わなかったが、さすが2人とも戦えるな」


「魔王城の治安維持、それが我々の仕事ですから」


「良い心掛けだ」



本格的に幹部達を鍛え直すプランを考えよう。

ルカとフランシスがこの感じならパトリックとジュードも鍛えなければいけないし、なんならラウドの実力も確認したい。



「あああああにいいいいじゃぁああああ!!!」


「やべっ、バレた」



異空間への外部からの侵入を感知した瞬間、おなじみの魔王様の声が聞こえてくる。猛突進でこちらに向かってくる2本の角を見て俺は受け身の体勢を取る。



「何してるんですかああぁ!!」


「ぐはあぁっ!!」



ダリアの突進を受け止めた俺は仰向けに倒れ、ダリアに上から乗っかられる。当のダリアはというと、寝間着を身にまとって少し眠そうな目で俺を見下ろしている。



「ダリアがせっかく寝ようとしてたのに起こさないでくださいっ!!」


「すまん、すまん。起こすつもりはなかったんだ」


「いいえ、許しません!!兄者、そこに正座してくださいっ!! そこの4人もですっ!!」


「えっ、私たちもですか?」


「魔王の睡眠を邪魔したのですから当然ですっ!!」


「ええ〜」


「イリナ、ええ〜じゃない!!」



結局、俺達5人はダリアにしっかりと絞られた。

5人で膝を並べて説教を受けた結果、個人的には居合わせた4人の幹部と少しだけ仲良くなれた。そんな気がした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る