第37話 2周目の裏ボスと盗み聞き
地下魔王城の廊下を俺はゆっくりと進む。
認識疎外のローブを着ているが、念のため追加で認識疎外魔法も掛けているから、流石に魔王軍の幹部でも気づかれないと思う。
「さーて、みんなは普段何をしてんのかな?」
まず向かったのは魔王城5階にある談話室。
俺の記憶が正しければ、幹部達はここで休憩していることが多かったはずだ。……というか、魔王城って広いな。1周目の時は居住スペースのある6階と玉座の間がある最上階の7階にいることが多かったから、意外と魔王城をしっかりと見て回ったことが少ない。
「ゆっくり入ってっと……おっ、フランシスとルカがいるな」
話し声が聞こえてきて、談話室をそっと覗くと暖炉の前で会話するフランシスとルカの姿が見えた。2人にバレないように談話室に入って俺は2人から少し離れた場所にあった椅子に腰かける。
2人はどうやら模擬戦をしていたらしく、その話題をしているようだ。
「……フランシス、最後のあればズルいよ」
「本気で戦うといったのはルカだ。それに、戦場にズルいもズルくないもない。最後に立っていた者が勝者だ」
「それにしたって1回くらいは勝たせてくれたって良いじゃないか」
「精進が足りないだけだ」
「へっ。そんなんだからジジ臭いって言われるんだ」
「なっ!? わ、私はそんなことを言われているのか…………」
フランシスはその名の通り
その時、足音が聞こえてきて談話室の扉が開かれる。
「おす~!! あれ、フランじい&ルカっちじゃん。おつ~」
「や、やはり私はジジ臭いのか……」
「フランシス、何を言っとるんだ? お前、ここにいる誰よりも歳を食ってるだろう。そもそも
「お前には言われたくないぞ、ジミー!!」
「なんだと?」
「あ?」
談話室に入ってきたのは執事長ジミーとメイド長イリナの2人だった。
そして、速攻ジミーとフランシスが喧嘩を始める。スーツをビシッと決めた竜人の執事長であるジミーもフランシス同じく古くから魔王軍を支えてくれている1人であり、ラウドとジミー、フランシスの3人は謂わば昔馴染みの悪友仲間だ。
そんなジミーとフランシスの喧嘩の発端となった吸血鬼のメイド長イリナはそそくさと2人から距離を取ってルカの方に近づく。
「あはは~おじさま達が喧嘩してる。ウケるんだけど。それで、なんの話してたの、ルカっち?」
「ああ、イリナねえさん。僕が今日もフランシスに勝てなかったって話」
「あーね。それでルカっちがフランじいに意地悪言ったんだ」
「イリナねえさんだってフランシスのこと”フランじい”っていうじゃん」
「アタシはいーの。これでもアタシも幹部歴長いからね」
「納得いかない……」
「あはは。大丈夫、そのうち慣れてくよ。フランじいも活きの良いルカっちみたいな若手の同僚が出来て嬉しいんだよ~。ね、フランじい?」
「う、うむ。そうだな」
「そうなの!?」
「そ、そんなことはない。ルカは幹部としてもっと精進しろ」
「どっちなのさっ!?」
「あははははは!! ジミー、この2人面白いんだけどっ!!」
「ああ。俺もフランシスが楽しそうで嬉しいよ」
ジミーの奴、悪い顔を浮かべてるな。どうせラウドと3人で飲むときの話のネタにするつもりなんだろう。……それにしても、俺やダリアのいない場所だとみんなこんな感じで話してるんだな。立場が違うから仕方がなくはあるが、なんとなく少し寂しい気持ちでもある。
「……若手で思い出したけど、デュースさまもお若いよね。久しぶりにお会いしてカッコよくなってて嬉しかったな~」
「ああ。幼い頃から苦労されただろうに、本当にご立派になられた。それに近頃はお疲れがたまっていたダリア様も喜んでおられた」
「我々は幼い頃のデュースさまを知っているからな。いや、本当に大きくなられた」
「そう言えばルカっちはデュースさまとあんまり絡みはなかったんだっけ?」
「そうですね……。お姉ちゃんから話を聞いた印象が多いです」
「たしかにイズとワイトは相当デュースさまを気にしていたからな」
「…………てみたい」
「ん? イリナ、何か言ったか?」
「デュースさまの血を吸ってみたい!!」
「なっ!? イリナ、それは余りにもデュース様に不敬では?!」
「分かってる、分かってるけどっ!! 気になるじゃん!! 美形で、オーラがあって、若い男の子の血なんて……想像しただけで……」
「駄目だ、完全に妄想に入っている。ルカ殿、あんまり彼女に近づかないほうがいいですよ」
「……はい」
「うむ、よろしい」
「でも、イリナ姉さんが言うこと気になりますね」
「と、いうと?」
「僕も気になってたんです!!デュース様がどれほどお強いお方なのか!!」
「それは………」
純粋なルカの興味にジミーとフランシスが答えに窮してしまう。1周目のときはダリアと俺が戦ったから幹部陣も俺の実力を知っていたが、たしかに今回は彼らにも俺の実力を見せられていなかった。
だったらちょうどいいかタイミングかもしれない。なんとなく端っこで盗み聞きしているのも申し訳なくなっていたところだった。……こっそりと談話室の外に転移してっと。
「気になるなら試してみるか?」
俺はローブをインベントリにしまって談話室の扉を開く。
俺が部屋の中に入ると、幹部4人が口をあんぐりと開いている。まさか会話が俺に聞かれていると思わなかったのだろう。なんとも申し訳ない気分だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます