第34話 2周目の裏ボスとカップル割のパンケーキ


露店街通りを一通り見て回った俺達はフォルネ街の中心部にある噴水広場にあるベンチに座って沸き上がる噴水を見ている。週末の休日ということもあって街は人通りが多く、先週の魔獣騒動が遠い昔のような雰囲気だ。



「デュース先輩、めっちゃ楽しいっス!!」


「そうか、良かったな。………そのネックレスはユーリとお揃いにしたのか?」


「そうっス!! かわいいっスか?」


「うん、似合ってると思うぞ」



ベンチで隣に座るリオネの胸元には海をモチーフにした青い硝子細工が光っている。同じようにユーリの胸元にも翡翠色の硝子細工が光っていて、2人の仲の良さが伝わってくる。



「ユーリも綺麗なネックレスだね。似合ってるよ」


「ひゃいっ!! ありがとうございましゅ!!」


「むうう、私の時と声のトーンが違うっス」


「あはははっ!! デュースも素直やないねえ~」



そんな会話を交わしながら穏やかに4人で噴水を眺める。

その時、隣から誰かのお腹が鳴る音が聞こえてくる。思わず音のなる方を向くと、お腹を抑えて赤くなっているユーリの姿が目に入る。これは……



「えーっと…なんか俺、腹減ってきたな!!カフェに行こうか!!」


「せ、せやね!!それがええわ!!」


「そ、そうッスね!!ちょうど私もお腹空いてきたっス!!」


「あ…あうう…はい…」



消え入りそうな声で返事をするユーリとをうながして、俺達は近くにあったスイーツカフェに向かうのだった。



▲ ▽ ▲



店内に入るとカウンターの前に列ができている。

どうやら先に注文して席に着く流れのようだ。列に並んでいると店員さんの声が聞こえてくる。



「いらっしゃいませ。ようこそ、喫茶スフィアへ〜」


「喫茶スフィア…どっかで聞いたことがあるッス。たしか……パンケーキとクレープがおいしいお店って友達から聞いたッス」


「へえ、そうなのか。パンケーキとクレープか。それにしてもリオネ…詳しいな」


「当然ッス!!情報収集はデートの基本ッスよ」


「そこは戦いとかじゃなくて、あくまでデートの基本なんだな。リオネ達は何か食べたいものあるか? 看板にはパンケーキ1枚で2人前って書いてあるぞ」



俺が指さした店内の看板には所せましとパンケーキやクレープのイラストが描かれていて、見ているだけで食欲をそそられる。特にクレープはイチゴにバナナ、ブルーベリーなどなどのフルーツ系のド定番からキャラメルやカスタード、チーズケーキ風、さらにはサラダと生ハムの軽食っぽいものまで、たくさんの種類がある。



「うう~迷うっス……でも、決めたっス!!」


「サリーとユーリも決めたか?」


「ウチは決まっとるで。お姫さんは?」


「ええっと…………」



まだ決めきれない様子でユーリは看板と俺に視線を交互させる。


なんか俺に知られたくない注文とか、そういう系か? 別にユーリが大食いとかでも俺は全然気にしないけど……



「何か2つで迷ってるのか?」


「そういう訳ではないんですけど………あの、デュースせんぱい」


「? 俺がどうかしたか?」


「あの、一緒にパンケーキを食べて欲しいでしゅ!! 」



…………思いっきり嚙んだ。

それは置いておいて、ユーリの視線の先には看板に描かれた大きなパンケーキのイラストが鎮座している。どうやらユーリはパンケーキは食べたいけど、1枚で2人前だから1人では食べきれないことへの葛藤に揺れていたようだ。



「そういうことか。うん、いいぞ。一緒に食べるか」


「ゆ、ユーリちゃん……策士っス!!」


「流石はウチのお姫さんや。ようやったで!!」



そんなこんなで4人でワイワイしていると列が進んで注文の順番になる。


結局、俺とユーリがパンケーキを、リオネがチョコナッツクレープを、サリーがチーズケーキ風クレープを注文する。ひとまず全員分の会計を俺が払って空いているテラス席に着く。



「めっちゃ美味しそうだったっス!! 待ちきれないっス~」


「せやねっ!! その場でクレープの生地作ってたし出来立ての提供や!!」


「2人ともテンション高いな。やっぱリオネやサリーでもこういうスイーツは好きなんだな。ちょっと意外だった」


「なんスか、それ。まるで私達が普通の女子じゃないみたいな言い方っスね」


「なんや、デュース。ウチらに喧嘩売ってるんか?」



なんか2人の目が怖い。

ここは話題を逸らして逃げよう。



「すまん、悪かったよ。……そういえば、俺とユーリのパンケーキが何故か値引きされてたんだよな。ほら、20%オフになってる」


「あれ、ホントっスね。なんかの割引とか?」


「分からん。あとで聞いてみるか」



そんな会話とともに俺とリオネがレシートを覗き込んでいると、フロアの店員さんがワゴンを持ってテラス席の俺達のテーブルにクレープとパンケーキを持ってきてくれる。



「お待たせしました!! 」



テーブルに並んだスイーツに俺達の喉が鳴る。

正直、どれもめっちゃ美味しそうだ。



「それじゃあ、頂きます‼」



パンケーキをユーリと分けて食べ始める。


パンケーキは見た目通りとにかく美味い。素材の味で勝負した王道のパンケーキという感じ。クレープも美味しいようで、俺達は思わず何も喋らずにがっついてしまう。



「いや、めっちゃ美味しいな」


「そうっスね……満足っス!!」



気付けば俺も、リオネも、ユーリも、サリーも食べ終わってしまっていた。

互いに何も残っていない皿を見て、何となく生暖かい時間が流れる。



「いらっしゃーい‼ 甘いスイーツはどうだーい。そこのお兄さん、デート帰りかい?いまならカップル割で20%割引するよ‼ ほら、いらっしゃい‼」



その時、カフェの店員さんが外で客引きする声が聞こてくる。


見るとユーリの顔が赤くなっており、サリーがその横でニヤニヤとした笑みを浮かべている。……そういえば周囲を見てみると、何故か男女ペアが多い気がする。



「えーっと……これは……」


「し、知らなかったん……です……」



ユーリが真っ赤になって顔を抑える。

どうやらユーリは注文を頼んだ後にカップル割の存在に気付いたようだ。そしてハナからそれを知っていたサリーは敢えて黙っていたと。この同級生、狡いな。



「なっ……ユーリちゃん…やっぱり策士っスっ!!!!!」



なぜか悔しがるリオネの声がテラスに響いたのだった。


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