第33話 2周目の裏ボスとお揃いのブレスレット

よく晴れた週末の日曜日の午前。

俺はフォルネ街の入口でまだ昇りきっていない太陽を見上げる。



「……どうせ同じ場所アカデミーから来るのに、なんで現地で待ち合わせる意味があるんだ?」



そう。俺は今、遊ぶ約束をしたリオネ達を待っている。

参加メンバーは言い出しっぺのリオネとそのルームメイトのユーリ、そしてユーリの家臣にして相棒バディのサリーの3人。……要はいつものメンバーである。



「お待たせしたっス!!」



しばらく待っていると、そんな声とともにリオネ達の姿が見える。

普段の制服姿と違って各々が私服を着ているからか、なんだか新鮮な気分だ。



「どうっスか? かわいいっスか?」


「えーっと…」



俺のところに来たリオネは上目遣いで俺を覗き込んでくる。


リオネは黒のスカートに眩しい白のシャツに髪と同じ色の赤い騎士風のジャケットを合わせ、その上に黒皮のトレンチコートを羽織ったスタイル。短髪も相まって活発な印象を与えるファッションだが、髪にかかるラベンダーの髪飾りがワンポイントで女性らしさを出している。



「かわいいってよりはかっこいいの方かな? でも元気で明るい雰囲気でリオネらしい感じだな。よく似合っていると思うぞ」


「……そうっスか。先輩がちょっと照れてたのに免じて許してあげるっス」


「わ、わたしはどうでしょうかっ!!」


「ええでっ!! いったれ、お姫さま!! デュース、ウチの姫さんはどうやっ!!」



今度はユーリがずいっと前に出て俺を見つめてくる。これは……どうしようか。


ユーリはお嬢様らしい若緑と白のチェックガラのスカート、胸元の意匠が凝らされたシルクシャツにはブラウンのリボンが飾られ、その上からグリーンの外套を羽織っている。麦わら帽子から見える三つ編みに結われた栗色の髪がお嬢様感を際立たせている。これは確かに可愛いらしい。



「ユーリは……うん、まさにお嬢様のお出かけって感じでお上品だし、かわいいな。ユーリの瞳と同じグリーンで統一してるのもユーリっぽくて良いと思うよ」


「あ、あう、嬉しいでしゅ……」


「ゆ、ユーリちゃん……羨ましいっス!!」



ユーリは消え入りそうな声でそう言うと麦わら帽子で顔を隠してしまう。

なんというか、今日も今日とてユーリはリスっぽいなあ。



「デュース。アンタ鈍感かと思っとったら、案外スミに置けへんな。ほな、ウチのファッションはどうや? かわええか?」


「いや、サリー。お前は自分でもかわいいと思ってその服着てないだろ」


「そうか? かわいいと思うんやけどなあ?」



そう言ってサリーは胸を張ってドヤ顔を浮かべる。


サリーは灰色のシャツに黒のスラックスを履いてたパンツスタイルに海軍風の長いPコートを羽織って、さらに黒革の手袋まで嵌めている。いや、デートだとするなら戦闘員色が強すぎますよ。絶対コートの内ポケットとかに武器隠してますやん。



「あー……うん、そうだな。カワイイ、カワイイ」


「せやろ? かわいいやんな?」


「ソウダナ、ソウダナ」


「デュースくん? 棒読みやめてみない?」


「………よし、みんな揃ったわけだしフォルネ街に入ろうじゃないか」


「そうっスね!! 急がないと日が暮れちゃうっスよーー!!」



ナイス判断、リオネ。流石は俺の相棒バディだ。


サリーの目が怖いって?こういう時は逃げるに限る。ってなわけで、4人でフォルネ街観光と行こうじゃないか。……え? 意気地なしって? キコエナイ、キコエナイ。



▼ △ ▼



「同級生より先に遊びに来れるなんて、ラッキーっス!! ね、ユーリちゃん!!」


「うんっ!! そうだね、リオネちゃん」



露店街通りでリオネとユーリが楽しそうにはしゃいでいる。田舎出身のリオネはもちろんのこと、ユーリもこういう観光は初めてなのだろう。2人で手を繋いで楽しそうに露店を見て回っている。……なんというか、微笑ましい光景だな。



「なんか、見てて癒されるわ」



俺と同じことを思ったのだろう、横でサリーがしみじみと呟く。

白銀の前髪から覗くサリーのエメラルドグリーンの瞳はどこまでも慈愛に溢れている。隣で優しく微笑む彼女が、実は刺客だったのだからびっくりだ。



「デュース……ありがとな」



ふいにサリーが呟く。



「なんのことだ?」


「昨日、コルレ会長と話したんよ。それで、ウチの任務は解かれることになってん。孤児院も面倒見てくれるって。会長、ウチに謝ってたわ」


「そうか、よかったな」


「アンタのおかげなんやろ?」


「さあな。それで………サリーは会長のこと恨んでるのか?」


「うーん、そうでもないな。ずっとモヤモヤしてる気持ちはあったんやけど、なんか、会長と話してたら、なんか可哀そうに思えてきてん」


「サリーは優しいんだな」


「そんなんやないよ。ただ、誰にだって失敗はあるって、そう思ったんよ」


「そうだな。失敗から学べばいいんだ」



そう。失敗から学べばいい。


俺も、コルレ嬢も、サリーも、誰もが今を藻掻きながら生きている。

正解が分からないまま、それでも正解を求めて、選んだものを正解と信じて。


事故とは言えリカルドとの決闘を受けてシナリオを逸脱してから、俺も何が正解か分からないなりに藻掻いている感覚がある。ただ、シナリオに従ってユーリを攫って、リオネを殺すのが正解じゃないことは知っている。



「………まあ、なるようになんだろ」


「アンタは気楽やね。さすがは会長代理やな」


「うるせ。なりたくてなったんじゃねえよ」



そんな軽口を交わして俺達はリオネとユーリを追いかける。

露店街通りは今日もにぎやかで活気溢れている。



「そこの若いお2人さん、お似合いだね!! 」



その時、見たことのあるアクセサリーショップの店員が俺達に声を掛けてくる。

ほとんど同じようなセリフをつい先週に言われたような気がするな。



「………ウチらのことやろか?」


「そうなんじゃないか? おばちゃん、俺達に手振ってるし」


「せっかくやし、見てみよか」



そう言ってサリーがアクセサリーショップへと歩いていく。

俺の顔を見た店員は………少し驚いた表情を浮かべて、あとは普通に接客してくれた。うん、絶対に二股してるクズ男と思われただろうな。


結局、俺とサリーは勧められたペアのブレスレットを買って店を離れる。おばちゃんは何故か熱心にコルレ嬢と俺が買ったのと別の色のブレスレットをお勧めしてきた。………多分、気を遣ってくれたんだと思う。そう思いたい。


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