第32話 2周目の裏ボスと銀色の短剣
放課後の
俺は重たい足取りで生徒会室に近づくと、ゆっくりと扉を開く。
「失礼しまーす」
「デュース君、待っていたよ」
やっぱりというか、当然というか、コルレ嬢は既に生徒会室に来ており会長の執務机に腰を掛けている。窓から差し込む夕日がコルレ嬢の黒髪をオレンジ色に染めている。
「昨日は……なんというか、すまなかったね」
「いえ、大丈夫でしたか?」
「ああ、大丈夫だ。むしろ、どこかスッキリとした気分だ。…………それにしても、昨日はとても長い一日だったね。デュース君と楽しくデートをしていたのが随分昔に感じるよ」
そう言ってコルレ嬢は窓の外に広がる景色を眺める。しばらくの静寂が生徒会室を支配する。俺はただ、コルレ嬢の次の発言を待つ。
3分程経っただろうか、コルレ嬢が俺に視線を向けて静かに口を開く。
「私は亡くなった父、アルバラードからオルタフェザード家を継いで当主となるよ。君にはサリーのことも含めて迷惑を掛けてしまった。申し訳ない」
そう言ってコルレ嬢が俺に頭を下げる。
ここで俺が貴族が~だの、平民が~だの言うのは野暮だろう。
「いえ、あの程度は迷惑に入りませんので」
「ふふっ。やはり君はやさしいな、デュース君」
「そんなつもりはないんですけどね」
「君の本質は善性だよ。悪に染まった一族の当主として保証しよう」
「それは、なんと返せば正解なんですかね」
俺が困ったような表情をすると、コルレ嬢がニッコリと微笑む。
その笑顔は、今まで見てきたどの彼女の笑顔よりも自然で、穏やかな表情だった。
「さて、ここからが本題だ、デュース君。君はこの学園の生徒会に入ってまだ日が浅い訳だが、生徒会長の持つ特権は言えるかな?」
「…………いえ、分からないです」
「素直でよろしい。まずは生徒総会の開会権と解散権。次に生徒会幹部の任命権と免命権、さらに生徒総会制定校則の裁可と公布、そして学園内での帯剣。この4つが生徒会長の持つ特権だ」
「よくそんなの覚えてますね」
「これは言ってしまえば貴族政治のおままごとだ。だが我々貴族、特に
「………貴族も大変なんですね」
「ふふふ、そうだな。そうかもしれない」
そう言ってコルレ嬢は笑う。それはもう、悪い笑顔を浮かべている。
リオネからコルレ嬢の呼び出しを聞いた時点で感じていた悪い予感が実感へと変わる。こんなことなら、バックレて逃げておくべきだった。
「さて、現在の生徒会には1つだけ空席の役職がある」
「…………なんでしょうか」
「それは生徒会長代理という役職なんだけど……」
「嫌です」
「言っただろう。生徒会幹部の任命権は生徒会長である私の特権だ。デュース君に拒否する権利はないよ。大丈夫、あくまで儀礼的な役職さ」
「本気ですか? リカルドで良いと思うんですが」
「それではダメだ。それじゃあ、たまに学園に戻った時に合法的にデュース君に絡みに行けないじゃないか」
コルレ嬢がゆっくりと俺に近づいてくる。
彼女の紅い瞳はまっすぐに俺を捉えて離さない。
「この学園を頼むよ、デュース君」
そう言ってコルレ嬢は腰に下げている銀色の短剣を鞘ごと手に取る。
昨日、一応コルレ嬢に返しておいた短剣だが、まさかそんな意味を持った代物だとは思っていなかった。…………受け取りたくねえ!!
銀色の短剣が俺の胸に押し付けられ、しぶしぶ受け取る。
〘
〘エリア:王都へのアクセス権が解放されました〙
〘エリア:各貴族館へのアクセス権が解放されました〙
〘エリア:王国騎士団本部へのアクセス権が解放されました〙
短剣を受け取った瞬間、俺の視界がポップアップしたメッセージで埋め尽くされる。
これは……生徒会長代理としてアクセス可能になるエリアのことなのか?とにかく今は混乱してそれどこれではない。
「どうかしたかい?」
「いえ、なにも」
コルレ嬢が短剣を受け取った俺を見上げてくる。
なんというか、近いな。この状況をリオネが見たら多分だけど発狂するぞ。
「君なら引き受けてくれると思ったよ。それと…………ありがとう、デュース君」
次の瞬間、コルレ嬢の唇が俺の首元を捉える。
一瞬何が起きたのか理解できなかったが、すぐに我に返る。
「それじゃ、頼んだよ」
コルレ嬢は何事もなかったかのようにそう言って笑うと颯爽と生徒会室を出ていく。夕焼けに染まる生徒会室に1人残された俺は、コルレ嬢を追うこともできずに固まるしかなかった。
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