第31話 2周目の裏ボスと何気ない授業の一幕


昼下がりの演習場の端で俺とリオネが言葉を交わす。


もはや実習授業のお決まりになってしまったが、一足先に課題を終えた俺達は演習場の端っこで見学。俺は課題に励む他の生徒達を見て小さく伸びをする。



「……昨日は散々な目にあった」


「流石の先輩もなんだかお疲れっスね」


「……そうかもな」


「デュース先輩、最近デッカいモンスターと闘いすぎっス。この1か月以内に山脈龍と闘って、翡翠の獅子と闘って、昨日は厄災龍と闘ってるんスから、そりゃ疲れるっス」


「あー…そうだな」


「珍しく素直っス。かわいい後輩リオネが膝枕をしてあげるっスよ?」


「断る」


「ちぇ~、やっぱり素直じゃないっス」



リオネが勘違いするのも仕方がないが、別に俺はモンスターと闘って疲れている訳ではない。この疲れは、一晩中続いたダリアとイズによるお説教に付き合っていたことが原因だ。


結局、ダリアの合流後にワイトとラウド、そして呼び出しを喰らったサージとルカの4人は魔王の間にて魔王ダリアと魔王秘書イズが主催の説教パーティーに強制参加させられる運びとなった。そこまでは良いのだが、なぜか何となく一緒にいた俺にも2人の怒りが飛び火し、最終的には俺も他4人と一緒に正座をさせられていた。


それはそれで青春っぽくて楽しくはあったのだが。



「あれで2人の怒りが収まるなら、まあいいか……」


「ん? なんか言ったっスか?」


「いや、なんでもない。……そう言えば、今日も生徒会ってあるよな?」


「あれ? 聞いてないっスか? 今日の生徒会はお休みっスけど、デュース先輩だけコルレ会長から呼び出しを喰らってるっス」


「いや、初耳なんだが」


なんか凄い嫌な呼び出しな気がする。

もはやこれは本能的な直観だ。……うん、バックレよう。



「あ、知らなかったことにしてバックレるのはダメっすよ。ちゃんとリオネが伝えたっスから、放課後に生徒会室に行ってくださいっス」


「…………おう」


「あはは、露骨に嫌そうっスねえ」



なぜか嬉しそうなリオネの表情を見て俺は小さく溜息をもらす。

その時、課題を終えたのか、サリーとユーリがこちらに向かってくるのが見えた。



「2人とも、おつかれさん」


「お疲れさまでしゅっ!!」



サリーの独特な口調とユーリのこれ・・のセットはもはや様式美だな。


そんなことを思って見ていると、隣に座っていたリオネがサッと立ち上がって2人とハイタッチを交わす。いつの間にかサリーとリオネの2人も仲良くなっている。昨日も2人で洞窟に入ってきていたし、彼女たちなりに何か仲良くなるキッカケがあったのかもしれない。



「ユーリちゃんも、サリーさんも、お疲れさまっス!!」


「2人とも、お疲れ。それにしても、速いな」


「……課題を3秒で終わらせたヤツが何を言っとんねん。デュース、アンタいよいよ容赦というか、手加減がなくなってきてへんか?」


「ははは、照れるな」


「褒めてへんわっ!! リオネちゃんもリオネちゃんで、ようコイツに食いついていけるわ。自分の才能が憎いわあ」


「いや、力加減しているお前が言ってもあんま説得力ないぞ、サリー。それにユーリも無意識に自分の魔力を制限しているみたいだし」


「へ? お姫様、そうなん?」


「そんなつもりはないんですけど……でもデュースせんぴゃいが言うのならそうなのかもしれないです…………」


「なあ、デュース?」


「ん? どうした?」



顔を上げるとサリーがどこか悪い笑顔を浮かべている。……リオネといい、コルレ嬢といい、なぜ俺の周囲はこの笑顔を浮かべる女性が多いのだろうか。もはやこの世界に俺の救いはユーリしかいない。



「せっかくやし、ウチとお姫様に魔法の特訓をしてくれへんか? デュースならウチ

等じゃ気付けないことも分かるやろうし、ええよな? お姫様も、どうや?」


「へあ? あ、デュースせんぱいが良いのなら、私は嬉しいですけど……」


「なら決まりやな」


「俺の意見は無視かよ」


「毎朝リオネとトレーニングしてるのは知ってんねん。言い逃れはできへんぞ?」



ネタは挙がっているとばかりにサリーが詰め寄ってくる。


いや、別に特訓をすること自体は良いけど、サリーは俺が魔王の息子とわかってるのに警戒心なさすぎないか? 実際、1周目では俺がユーリのことを殺したことになっていたし。今更その辺を気にするつもりはないが。



「やるのは別にいいが……リオネは何もしてないぞ?」


「それは心外っス!! あれでも私なりの特訓をしてるっス」



《~~~♪》



授業終了の鐘が演習場に鳴り響く。


よし、このまま特訓の話はうやむやに……はい、できないですよね。サリーのジト目に睨まれながら俺は渋々男子生徒達の列へと戻っていく。その時、慌てたようにリオネが駆け寄ってくる。



「そういえばっスけど、今週末の休日は空けておいて欲しいっス」


「ん? どうしてだ?」


「前に約束してたフォルネ街のデートっスけど、サリーさんが5月休暇は帰省するみたいなんで、普通の休日に行くことにしたっス!!」


「あれ? 新入生って外出許可がないと学園から出られないんだろ?」


「ふっふっふ。外出許可がないと、出られないだけっス」


「……まさか、会長か?」


「正解っス。コルレ会長にお願いしたらOKをくれたっス!!」



そう言ってリオネは胸を張って俺にピースを向けてくる。その表情は、満面の笑顔で彩られていた。


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