第30話 2周目の裏ボスと仲良し3人組


魔王城地下、地底龍ダンジョンの最奥の間。

ダンジョンボスである地底龍ワイトの下に1匹の炎狼が駆け込んでいく。



「ワイトさまっ!! 大変ですっ!!」


「どうしたんじゃ、ケルよ。そんなに慌てて、侵入者でも来たのか? そんなわけないか、あはははは」


「笑いごとじゃないですよっ!! いらっしゃったんです!!」


「ケルよ、”いらっしゃった”って、誰がじゃ。われの過ちでダンジョンの扉が閉ざされて以来、誰もここに入ってこれた者はおらんだろう。今の魔王様でも開けないんじゃ。なんの冗談を…………マジで?」


「本当です!! デュース様が、あのデュース様がこちらに向かっておいでですっ!!」



炎狼の発した名前を聞いた地底龍の顔色が変わる。

それは焦りなのか、喜びなのか。とにかく彼女・・の顔が紅潮する。



「……デュー坊が!?」


「はいっ!! 左様ですっ!!」


「あわわわわ……マズい、マズいのじゃっ!!!!!」



いずれ多くの冒険者達を震え上がらせる地底龍ダンジョンのボス部屋に、なんとも悲痛な叫び声が響き渡るのだった。



▼ △ ▼



ダンジョン内を爆走する炎狼ベルの背中で俺は呑気に欠伸をする。当然というべきか、ベルの背中はクッションのようにモフモフしてて、ほんのりと暖かい。要は、めちゃめちゃ眠くなる。……そんなわけで、迫りくる眠気と戦いながら俺はボス部屋にいるであろう地底龍ワイトの下へと向かう。



「おっ、そろそろかな? それにしてもベル、脚速くなったなあ」


「ありがとうございますっ!! 毎日トレーニングしてますのでっ!!」


「そうなのか、偉いな」



俺が頭をなでてやるとベルは嬉しそうに尻尾を振る。……癒される。かわいい。3兄妹をモフモフするのもアリかもしれない。



「ワイトさまが門を閉ざしてしまってから侵入者もいなかったので、身体が鈍らないようにダンジョンのみんなで訓練をしているんですっ!!」


「そうか、そうか。……ん?てことは、やっぱり門を閉ざしたのはワイトなんだな? ラウド、いつ頃のことか覚えてるか?」


「はっ!! おおよそ7年程前になります。あの、なんというか……」


「どうかしたのか?」


「……」


「代わりにイズがお答えします。ワイトは……あのアホ娘は賭けに負けた腹いせで地下に閉じ籠ったのです。はあ、まったく、この馬鹿どもは……」


「賭け?」


「はい。あのアホ娘はウチの愚弟堕天使ルカとお調子者料理人サージ、そして、そこにいる酔いどれ悪魔ラウドの3人との賭けボードゲームに負けた際に逃走、軽い気持ちでダンジョンの扉を封印し、おそらく出てこられなくなったのかと」


「……ラウド、本当か?」


「間違いございません。ワイトの名誉のために秘密にしておりましたが、ダンジョンの扉が開かれた今、お隠しする訳にはいきませぬので……申し訳ございません」


「……ふふふ、そうか。そうだったか」



なにその面白エピソード。てか、魔王軍幹部たち仲良いな。


1周目の時は余り関われていなかったけど、当然ながら魔王軍の仲間達にもそれぞれの人生があって、それぞれの生活があるのだろう。せっかくだし、彼らとも親交を深めたいな。……それにしてもイズに叱られるラウドの姿を初めて見たが、この2人も裏では案外こんな感じなのかもしれない。



「さて、着いたな。ありがとう、ベル」


「はいっ!! いつでもお呼びください……あっ、兄ちゃんっ!!」



俺がベルを撫でていると、ちょうどベルの兄であろうケルが姿を現す。大きなモフモフが2匹並ぶと壮観だな。残すモフモフは2匹の妹である炎狼スウのみである。



「デュースさま、お久しぶりです」


「うん。ケルも元気そうで良かったよ。それで、ワイトは?」


「はい。ワイトさまは奥のボス部屋にいらっしゃます」


「そうか、ありがとう。それでは久々にワイトに会いに行こう。イズ、ラウド、付いてくるだろう?」


「「はっ!!」」



だから、そこまで畏まらなくても良いんだけど。

ひとまず、ワイトに会いに行こう。賭けボードゲームのことも聞きたいし。



△ ▼ △



「たのもーう!!」


「も、申し訳ございませんなのじゃあっ!!!!!」



俺がボス部屋の扉を開くと、1人の少女がスライディング土下座をして足元に滑り込んでくる。後ろを振り返ると、イズが額に手を当ててやれやれといった表情を浮かべている。



「……話はイズとラウドから聞いたぞ」


「ち、違うのじゃ、デュー坊!! 我を見捨てないで欲しいのじゃあ~」



紅蓮の長い赤髪に黒い角、縦の楕円が特徴的な赤い瞳。そして外見上の幼い体型に似合わない言葉遣い。目の前で俺の袖をグイグイ引っ張る彼女こそ、魔王軍特別幹部にして魔王軍最年長の将である地底龍ワイトである。



「なにも違わないでしょう、ワイト。この馬鹿ドラゴン娘」


「なっ、イズ!! むぐぐ、何も言えないのじゃ……で、っでも、違うのじゃあ!! そこにいるラウドとサージとルカが酷いんじゃ!! 3人がかりでわれを負かして、我を、我を……」


「ワイト、デュース様に嘘は良くないぞ。アナタが弱いがゆえにボードゲームに負け、破産しそうになっただけです」


「我が賭けに弱いのを分かって仕掛けてきたのはお主じゃろう、ラウド!!」


「このお馬鹿ども……デュース様の御前で見苦しい」


「「……も、申し訳ない(のじゃあ)」」



魔王軍の最古参なだけあって、この3人やっぱり仲良いな。


正直まったく怒ってはなかったけど、少し𠮟るべきかとも思っていたが、そんな気分じゃなくなってしまった。……どうせ賭けの話がバレたらサージとルカも含めて魔王であるダリアからお灸を据えられるだろうし、今は素直に再会を喜ぼうじゃないか。



「まあまあ、イズ。せっかく久し振りに会ったんだ」


「……デュース様がそう仰るのであれば」


「デ、デュー坊……ありがとうなのじゃあ!! 我は感激しておるのじゃ!!」


「それにしてもワイト、お前、そんなに幼かったか?」


「な、なんのことなのじゃ?」



俺の記憶が正しければワイトは、なんというか、もう少し成長した女性の姿だった気がする。今は10代中盤くらいの姿だが、俺の記憶の彼女は20代中盤くらいの姿だ。ダンジョンの扉を封印したのと関係あるのだろうか。



「…………ワイト、お主のことだ。どうせデュース様より少し年下の姿になって許して頂こうとしたんだろう」


「ラウド!!違うわいっ!!」


「それではアレか、若見せというヤツか?」


「……ラウド?」


「なっ、イズ!? なぜお主が怒っているんだ?」


「あははははは!!ラウドめ、ざまぁなのじゃ!! デリカシーのないことを言っておるとイズに愛想をつかされるぞっ!!」


「……ワイト、あなたも同罪ですよ?」


「なにゆえっ!!」



待って。今の感じ、ラウドとイズの2人って、もしかして、もしかする?


え、全然知らなかった。てか、ダリアは知ってるのかな? へえ~、そうなんだ。マジで全然気づかんかった。 確かに仕事上の関りも多いだろうし……


その時、遠くからこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。



「あああああああにいいいいいいじゃあああああああああ!!」



振り返ってみれば最後の炎狼スウに跨った魔王ダリアの姿が見える。……さて、ここからはお説教タイムかな? とりあえず俺は受け身の態勢を整えよう。



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