第29話 2周目の裏ボスと最下層への扉


「なんか、どっと疲れたな」



女子寮を後にした俺は中庭から覗く夜空を見上げて溜息交じりに呟いた。


結局、コルレ嬢は泣き疲れて眠ってしまった。この数日間は俺の暗殺計画に悪戦苦闘していただろうし、これまでの学園生活で常に気を張っていたのもあったのかもしれない。気が付けば彼女は俺の腕の中でスウスウと寝息を立てていた。



「それにしても、あのリオネは面白かったな」



中庭で涼みながら俺はリスのようにほっぺたを膨らませていた後輩を思い出す。


俺がコルレ嬢を抱きとめていたときからリオネは不満そうな顔をしていたが、いざ眠ってしまったコルレ嬢を女子寮に運ぼうと思って彼女をお姫様抱っこした時、リオネはそれはもうご機嫌斜めだった。頬を膨らませて上目遣いに俺を睨んでは、無言で膝を蹴ってくるのである。眠っているコルレ嬢への配慮なのかもしれないが、普通に蹴ってきてたからあんまり意味がない気がする。…………こんど何かで埋め合わせが必要かもな。


そんなこんなでコルレ嬢を女子寮に送り届けて俺は晴れて自由の身になった訳だが、まだすべきことが待っている。そう、呪縛の書を破壊した時に流れたステータスメッセージを確認しなければならない。



「………さて、行ってみるか」



俺は周囲の人目を確認して、中庭から繋がる地下魔王城へと向かう。

もし会えるならワイトに会うのも久しぶりだ。


▼ △ ▼



俺はゆっくりと階段を降りて玉座の間へと足を踏み入れる。

ちょうどよく玉座の間にいた魔王秘書イズと魔王軍司令長官ラウドの2人と遭遇する。俺に気付いた2人はうやうやしく頭を下げて俺に会釈をする。どうやら仕事の話をしていたらしい。



「お疲れさま。ダリアは?」


「はっ!! ダリア様は寝室にて御休みになられています。」


「そうだったか。ありがとう。」



流石は魔王秘書と言った所か、イズが俺の質問に答えてくれる。


改めて魔王軍筆頭幹部の2人を見ると、堕天使のイズも老悪魔のラウドも相応の雰囲気がある。……そう言えば、この2人も地底龍のワイトとは仲が良かったはずだ。せっかくだし、一緒に連れていくのもアリかもしれない。



「…………2人はこのあと少し時間あるか?」


「「はっ!!」」



仕事の邪魔になっても悪い。あえて軽いノリで2人に尋ねてみるが、悲しいかな、俺の思いは伝わらず2人は仰々しく膝を付いて俺を見上げる。……いや、マジでそこまでしなくていいから。というか2人の期待の眼差しが痛い。



「そんなに畏まらないでくれ。それじゃあ…ちょっと付いてきてくれる?」


「承知いたしました。」


「それじゃ、行こうか」


「「はっ!!」」



どこに行くのかも聞かずに2人は俺に付いてくる。

…………なんというか、先が思いやられるな。


1周目の時は基本的にはリオネの監視のためにあまり魔王城に居れなかったし、そもそも指示はダリアに出していたから魔王軍幹部といえど余り接点は多くなかった。せっかく2周目は早い段階で彼らと再会できたのだ、しっかり関係を作っていこう。


そんな決意を胸に抱いて俺は地下魔王城の最下層へと向かうのだった。



▼ △ ▼



俺達3人は魔王城の1階へと赴く。


魔王城最下層へと繋がる扉は前回ダリアと来た時と変わらず閉ざされたままだ。俺は扉に近づいて重苦しい黒鋼の錠に手をかざして、ゆっくりと魔力を流し込む。



「……こんなもんか」



ガチャリという錠が外れる音とともに、金属が軋む音が鳴り響いて扉が開く。後ろに控える2人の驚きの声を聞きながら、俺は魔王城の最下層へと繋がる階段に脚を踏み入れた。



「デュ、デュースさまっ!?」


「お、ベルじゃないか。久し振りだなあ!!」


「お、俺を覚えててくれたんですか?」


「当然じゃないか。他の2人は元気か?」


「はいっ!!」



階段を降りるとそこは地底龍ワイトのダンジョン。


その入口の門番を務める3兄弟の炎狼の1匹が俺に気付いて驚きの声を上げる。かつて魔王城に挑む人間達からは“地獄の門番”なんて言われていた炎狼だが、見た目はデカいワンコ、かわいいもんだ。


長男ケル、次男ベル、末っ子スウの3匹のうち、目の前にいる灰色のもふもふとした毛並みから燃え上がる蒼色の炎が特徴のこの子は次男のベルくん。……めっちゃ尻尾を振ってくれてる。



「実はワイトに会いに来たんだ。ベル、案内してくれるか?」


「承知しました!!ただ……」


「ん? どうかしたか?」


「もしワイト様にお会いになるなら事前に教えてあげたほうがいい気がしまして……兄ちゃんにワイト様にも伝えに行ってもらうようにお願いしておきます」



そう言うとベルは目を閉じて眉間にシワを寄せる。この炎狼3兄弟はお互いに思念を共有することができる。この能力をもとに発揮されるチームワークは人間の冒険者達を殲滅し、恐れられていた。



「うう~ん」



ベル君が唸って頭を軽く振る。


兄弟に念を送ってるんだろうが、傍から見ると大きい犬が唸っているだけなので可愛らしい。ほっこりとした気分でベル君を見ていると、ベル君はぱっちりと目を開ける。



「終わったかい?」


「はいっ!! ケル兄が伝えに行ってくれました。それでは……」



ベル君が屈んで俺達3人の前で伏せをする。

どうやら背中に乗せていってくれるつもりみたいだ。



「背中に乗せてくれるのか。それじゃ、遠慮なく……ラウドとイズはどうする?」


「我々は………」


「走らせていただきます。ラウド、行きますよ」



ラウドを制してイズが歩き出す。


やっぱり、そうなっちゃうよね。別に一緒に乗っても何かを言うつもりはないけど、2人の性格からして畏まってしまうのかもしれない。まあ、ひとまずワイトの下に向かうとしよう。


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