第28話 2周目の裏ボスと親子の会話



「…………終わらしてくれ」



肩で息をするアルバラードが発したのは、そんな言葉だった。


アルバラードの表情は苦痛の色がありありと浮かんでいる。しかし、その瞳には先程までとは違って意志が感じられる。マジックアイテムの支配が解けたのだろう、アルバラードは真っ直ぐに俺を見つめる。



「父上っ!!」


「ああ、コルレ……すまなかった」



膝を着いたアルバラードの下にコルレ嬢が駆け寄る。


既に2人ともマジックアイテムの支配からは解放されている。ただ、アルバラードが完全には支配から抜け切れずに魔力を吸われている状態ではある。恐らく40年以上はマジックアイテムの支配下にあったのだろう、もはやアルバラードの精神を完全に分離させることはできないし、本人もそれを望まないだろう。



「罪は償われるべきだ。私の命で我が一族の犯した罪が贖われるとは思わない。ただ、罪の連鎖を終わらせることも、また、必要なことなのだ。…………コルレ、お前は、お前の望む道を歩め」



そう言ってアルバラードは「呪いの書」を差し出すようにコルレ嬢へと渡す。


「呪いの書」を受け取ったコルレ嬢はゆっくりと腰から銀色の短剣を抜き取って……少し躊躇うような表情を浮かべる。恐らく彼女は理解しているのだろう。そのマジックアイテムに刃を突き立てることが、自身の父親の命を奪ってしまうことを。



「父上。私は理想的なオルタフェザードである父上を尊敬しておりました。裏街の支配も、暗殺行為も、全ては王国の秩序と安寧の為であったと信じています。それでも、最後に父上の、本来の優しさに触れられてコルレは嬉しかったです。私は、私なりのオルタフェザードとなります。…………父上、さようなら」



銀色の短剣が「呪いの書」に突き立てられる。


その刹那、最後に残された魔力のコアが破壊されて紫の光の結晶が霧散し、マジックアイテムの存在が完全にこの世界から消滅する。それと同時にアルバラードの鼓動が止まり、彼の身体が崩れ落ちる。



「―――高貴なる者よ、安らかに眠りたまえ」



俺は小さく呟いて精霊魔法を発動する。


明るく優しい炎がアルバラードを包み込んでいく。彼の存在もマジックアイテムと同じようにこの世界から徐々に消えてゆき…………そして、彼の存在が完全に消滅する。俺はゆっくりとコルレ嬢に近づき、彼女が落とした銀色の短剣を拾い上げる。


その瞬間、俺の視界にストーリー達成のログと領域開放ログが流れる。…………なんか見たことあるような流れだな、これ。



キーの取得が確認されました〙

〘新規エリアのロックが解除されます〙


〘エリア:地底龍ダンジョンへのアクセス権が解放されました〙

〘エリア:地底龍ダンジョンの支配権が貴方へ譲渡されました〙

〘部下:魔王軍幹部 地底龍ワイトが部下へと復帰しました〙



これは……コルレ嬢の銀の短剣が鍵〘キー〙だったってことか?

表示されたシステムメッセージを読みながら自分の思考に入ろうとしたところで、コルレ嬢と目が合う。



「デュース君………」


「会長、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫……大丈夫だよ。初めからこうするつもりだったんだ」


「……そうですか」


「そうだ。私にはデュース君を殺すことはできなかっただろうからね。それなら、きっと私は父を倒すことになっただろう。だから、きっとそういう運命だったんだ」



そう言うコルレ嬢の頬には一掬の涙が流れ落ちている。俺はゆっくりとコルレ嬢に近づき、彼女を抱き寄せる。



「デュースくん……」



胸の中から彼女の嗚咽が聞こえてくる。


……恐らく彼女の予想は間違っていない。


本来のシナリオ通りにリオネの暗殺に失敗しようと、今回アルバラードが現れずに俺の暗殺に失敗しようと、彼女は5月休暇の帰省でアルバラードを倒していたのだろう。1つ違うとすれば、そのシナリオでは彼女が「呪いの書」の新たな宿主になっていた、ということだろう。


……まあ、難しいことは置いておいて、今は彼女の涙が止まるまでは一緒にいよう。せめて、頬を伝うその涙が彼女の魂に残った呪いを完全に洗い流せるように。



「会長、あなたは強い人だ。でも、今だけは、素直になって下さい」



静まり返った洞窟。

サリーとリオネは何も言わない。


コルレ嬢の嗚咽だけが洞窟に響いていた。

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