第27話 2周目の裏ボスと「呪いの書」
《Gyaaaaaaaaaaaaaa!!!!》
どす黒い瘴気をまとったドラゴンが俺を睨みつける。咆哮とともに地面を蹴ったヤツの鋭い爪が俺に迫ってくる。
「―――ランド・シュリンク」
俺は攻撃が当たる直前に縮地で距離を取ると、攻撃を外して体勢が崩れたドラゴンの脚を思いっ切り蹴り飛ばす。……肉弾戦において最大のチャンスは相手の攻撃の直後だ。俺は重たい感触を感じながら脚を振り抜く。
《Gyuuuuuaa!!》
ドラゴンはふらつくが、なんとか耐えて俺を睨んでくる。……コイツからアルバートから感じた知性は感じない。どちらかというと生存本能で戦っている野生動物みたいだ。
「耐えたか。なら今度はこれでどうだ? ――ランド・シュリンク、そしてファイア・フィスト」
ふたたびの縮地で今度はドラゴンに近付くと、勢いそのままに炎を纏った拳でヤツの柔らかい腹部を殴り付ける。
俺の拳がめり込み、ドラゴンは苦痛の声を上げる。
「―――サーチ・アクセル」
俺は違和感の原因を求めてドラゴンと接触した拳を中心に感知魔法を発動する。その間にもドラゴンの反撃が迫ってくる。
「……なるほどな」
すんでのところで反撃を躱すと、俺はそのままドラゴンとの距離をあける。
感知魔法で得たのは、ドラゴンの体内にある2つのコアとその結びつきについての情報だった。ドス黒いコアから触手のように伸びた魔力がもう1つのコアを染め上げている。
「まさに呪いだ」
それはオルフェタザードに伝わる呪い。それは家族の血縁よりも優先される、させられる代物。
俺が燃やしたコルレ嬢のアイテムの本体が目の前のドラゴンであり、ヤツの本来の姿もまた呪いの書なのだろう。そして、ヤツは何らかの意図でこの世界から排除すべき人間を選定し、オルフェタザード家の人間はそれに従って暗殺を実行する。
それがオルフェタザードに課された呪縛であり、それこそが血塗られたオルフェタザードの本質なのだろう。
《GYAAAAAAAAAAAAA!!》
「お、身体の中を診られたのが気に食わなかったか?―――イージス!!」
ドラゴンの口から噴射された青白い炎を防ぎながら、俺は少しずつ後退する。
「お返しだ、少し離れてろ。―――アステ・ディアス」
《Gyuaaaaaaa!!》
悲痛の方向とともに青白い炎もろともドラゴンは光の奔流に押し返されて洞窟の入り口まで後退させられる。その間に俺は未だに座ったままのコルレ嬢に近づいて彼女の胸の中心にそっと手を添える。
「―――サーチ・アクセル」
彼女の体内の魔力の流れを感じ取って、そのコアを確かめる。
…………大丈夫だ。恐らく彼女があのアイテムを所持したのはどうやら数年間だったのだろう。コルレ嬢の精神はまだアイテムの呪縛には染まってはいない。大丈夫、コルレ嬢はまだやり直せる。
「な、なにやってるんスか、デュース先輩っ!!! セクハラっス!! 」
その時、洞窟の入り口から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
なんでここにリオネが……ってサリーもいるのか。てか、俺よりも目の前にいるどデカいドラゴンの方を見ろよ。ほら、邪魔されて君のことすっごく睨んでるよ、そいつ。
《GYRUAAAAAA!!》
「ぎゃ!? なんスかコイツ。めっちゃ睨まれてるっス。喧嘩売ってるっスか?」
そら言わんこっちゃない。……どうやらリオネにも睨みの麻痺効果は効かないらしい。はやいとこ決着をつけちまおう。状況は理解できたし、あとはアルバラード爺さんをどうするか次第だが、ドラゴンをどうにかしないと救えるモンも救いようがない。
俺はしっかりとコルレ嬢の目を見る。
「……デュースくん」
「会長、あなたは呪縛から解放されたオルタフェザードだ。何によってオルタフェザードが病み、何がオルタフェザードを苦しめていたのか。それを、しっかりと見ていてください。それでは…―――ランド・シュリンク!!」
《Guuuuu…》
「どうせ炎の噴射だろ、もう見たよ。――パリィ」
俺は一気にリオネとサリーの下に行くと2人を守るように反射魔法を展開する。
案の定というか、想像通りに放たれた青白い炎がドラゴンの身体を包む。こうしてみると見てくれの印象だけであんまり強くはない。本来は睨みの麻痺効果が厄介なんだろうが、効かないものは仕方がない。…………さて、そろそろ終わらせよう。
「―――ブラッド・ランス」
俺は親指を魔族の特徴である鋭い犬歯で少し噛み、滴る血で1本の槍を生成する。
吸血鬼のメイド長イリナが言うには俺とダリアの血は濃度が濃くて酔うらしいが、今は関係ない。鮮血色の槍がドラゴンの首元を突き刺し、そこにある魔力のコアを貫く。確かな手応えとともに、ドラゴンが呻き声をあげ………灰色の粒子となって霧散する。
「…………アルバラード」
「…………」
残されたのはうずくまるアルバラードと呪いの本。
コアを貫かれたはずのマジックアイテムは宿主であるアルバラードの魔力を消費してその姿を維持しているようだ。その執着はもはや生存本能に近い。何世代にも積み重なったオルタフェザード家の歴史が1冊のマジックアイテムを肥大化させ、そのなれの果てが今も怪しい赤の光を発する「呪いの書」なんだろう。
「………………」
俺の視線の先でアルバラードは黙りこくっている。
その姿にもはや公爵貴族当主としての面影はなく、ただの年老いた1人の哀れな老人の姿がそこにある。
きちんと魔法解析すれば分かることだが、恐らくはただの伝信用のマジックアイテムだったものが蓄積した負の感情がどこかで悪意ある人間による改造によって解放され、そして、そのマジックアイテムが魔法の才能が色濃い高級貴族の歴代当主たちを宿主にすることで、結果的にここまでの代物になってしまった、といった所だろう。
「…………終わらしてくれ」
アルバラードによって発されたのは、そんな言葉だった。
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